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- 2024
- 11
第24回 日韓漁村漁港漁場技術交流会議
技術審議役 岩本 泰明
第3調査研究部 海老原 碧
はじめに
「第22回日韓漁村漁港漁場技術交流会議」が令和6年6月27日(木)に韓国全羅南道木浦市のホテル現代(Hotel Hyundai by Lahan Mokpo)において開催されました。
今年は、「漁村消滅危機に対応するための漁村・漁港基盤づくり方策」をテーマに日韓両国から6名の発表が行われました。ここでは、発表概要を紹介します。
概要
⑴ 開会
- 開会の辞 洪 鍾旭 氏(韓国漁村漁港公団 理事長)
- 挨 拶 髙吉 晋吾 氏(全国漁港漁場協会 会長)
- 来賓祝辞 代表団紹介 両国代表団 団長
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洪 鍾旭 理事長
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髙吉 晋吾 会長
⑵ 主題発表
テーマ:漁村消滅危機に対応するための漁村漁港基盤づくり方案
座長:崔 聖愛 氏(韓国海洋水産開発院名誉研究委員)
- 漁村沿岸の活力の高める方案
辛 哲鎔 氏(海洋水産部 漁村養殖政策課 書記官) - 令和6年能登半島地震について
浜崎 宏正 氏(水産庁 漁港漁場整備部 整備課 課長補佐) - 漁村漁港の再生推進方案
李 鎭旭 氏(韓国漁村漁港公団 再生事業統括室長) - 日本における海業の推進について
加藤 健太郎 氏(水産庁 漁港漁場整備部 計画課 利用調整係長) - 帰漁帰村政策の推進状況
鄭 道燮 氏(韓国漁村漁港公団 帰漁帰村総合センター長) - 漁村振興の方策としての海業の展開について
海老原 碧(漁港漁場漁村総合研究所 第3調査研究部 研究員)
⑶ 質疑応答
⑷ 閉会
⑸ 午餐
発表概要
発表1漁村沿岸の活力向上の方案
辛 哲鎔 氏(韓国海洋水産部 漁村養殖政策課 書記官)
韓国は少子化などにより人口減少時代に突入している。韓国政府は全国の228ヶ所の基礎自治体(市郡区)中89自治体を人口減少地域に指定したが、このうち31自治体が漁村と沿岸地域である。特に漁村においては都市や農村に比べて高い高齢化率と人口減少傾向がみられ、他よりも早く消滅に向かっている。漁村が消滅する主な原因として、劣悪な定住環境や都市部に比べて低い所得水準、良質な雇用の不足、漁村参入の障壁などが挙げられる。一方で、漁村は水産物の生産拠点であり、水産業従事者90万人の生活基盤であることに加えて国内旅行者の71%が海を選ぶという点から成長の可能性を秘めている。
以上を踏まえ、海洋水産部は従来の漁村・水産業中心の構造から裾野を広げ、海洋観光に代表される沿岸地域までを「海の生活圏」と位置づけ、水産業と海洋観光政策を連携させるパラダイムシフトを推進する。これにより、漁村は収入の不足分を海洋観光から補完でき、観光客は漁村の体験型コンテンツや海の幸で満足度向上が期待できる。
今回の対策では「豊かな暮らし、訪れたくなる海の生活圏」をビジョンに掲げ、海の生活圏の経済・生活拠点や観光客の拡大、さらに年間の地域売上高最大50兆ウォン(2022年、推定売上40兆ウォン)を目標に4つの推進戦略を提示した。
第一の戦略は、「テーマ別海の生活圏における経済・生活拠点づくり」である。漁村漁港基盤の海の生活圏は、大規模な民間投資と経済・生活インフラ支援を厚くし、拠点機能を強化する。また、企業の誘致のため漁村地域の国有地・公有地の活用、漁港内の収益施設の設置規制の緩和などに取り組んでいく。仁川、釜山など都市型の海の生活圏は、港湾の再開発を通じて海洋観光拠点として造成する。地域型の海の生活圏は、各自治体の発展戦略を踏まえた特化戦略を策定する。
第二の戦略は、「水産業の革新と雇用創出による稼げる海の生活圏」である。水産業が魅力的だと感じられるような対策として漁船漁業は2028年から漁獲可能量 (TAC)を拡大し、規制を大幅に緩和する革新政策に取組み、養殖業のスマート化・自動化技術の開発と普及を重点的に推進する。ソウル市面積の4倍に相当する漁村契※の共同漁場資源の有効活用のため、公共機関の仲介によって若者など新規漁業就業者に賃貸やリースを行い、新たな雇用も創出する。
第二の戦略は、「水産業の革新と雇用創出による稼げる海の生活圏」である。水産業が魅力的だと感じられるような対策として漁船漁業は2028年から漁獲可能量 (TAC)を拡大し、規制を大幅に緩和する革新政策に取組み、養殖業のスマート化・自動化技術の開発と普及を重点的に推進する。ソウル市面積の4倍に相当する漁村契※の共同漁場資源の有効活用のため、公共機関の仲介によって若者など新規漁業就業者に賃貸やリースを行い、新たな雇用も創出する。
第三の戦略は、「漁村・沿岸の観光連携による訪れたい海の生活圏」である。漁村体験休養村のスタンプラリー、 宿泊施設をホテルレベルに改善、海女など体験型観光の拡大、ワーケーションの拡大などを通じて漁村の体験型観光を拡充する。 海洋ヒーリングセンター造成、企業と市民が共に海水浴場の環境を改善するビーチクリーン活動の促進、海洋レジャーの拠点拡大などで、より多くの海洋観光客を誘致する計画も盛り込む。
第四の戦略は、「定住環境の改善による暮らしやすい海の生活圏」である。人口減少地域にセカンドホームを購入する際の税制優遇措置、住居-仕事-漁村契加入をワンパッケージで提供する若者帰漁総合タウン、島嶼部を訪問する漁村福祉バス、非対面診療の島ドクターなどを精力的に推進し、福祉システムを見直す。また、都市部の人が帰漁村の情報を容易に入手できるよう政府-自治体の定着情報統合検索システムを構築する。有名帰漁YouTuberなども積極的に発掘する。
今回の対策を通じて、韓国政府は漁村と沿岸、すなわち海の生活圏に新たな活力を吹き込むことを期待する。
- ※ 水産業協同組合法によって設立された漁業者団体である。
発表2令和6年能登半島地震について
浜崎 宏正 氏(水産庁 漁港漁場整備部 整備課 課長補佐)
令和6年1月1日16時10分、石川県能登地方を震源としてマグニチュード7.6、深さ16kmの地震が発生した。石川県輪島市などで震度7を観測するほか、約4m(推定)の浸水深の津波が発生し、死者245名、8,000戸以上の住宅が全壊するなどの大災害となった。
今回の地震で特徴的なのは、外浦地域と呼ばれる能登半島北部において最大約4mの隆起が発生したことである。これにより、外浦地域に立地する多くの漁港が機能不全となった。また、内浦地域と呼ばれる能登半島の富山県側においても、地震による揺れや津波により大きな被害が生じた。
現在、現地においては、漁港の仮復旧等により、漁業操業可能な地域においては操業を開始しているほか、漁港の本格復旧に向けた調査が行われている。その際、調査が効率よく進むよう、新技術の活用が積極的に進められている。具体的には、ナローマルチビームを活用することにより、広範囲に水域を測定することが可能となり、調査の効率化を図るほか、画像データを併せて海底地盤の状況を視覚的に捉えることが可能となっている。また、陸域においてはドローンを活用することにより、広範囲に被災状況を把握することができ、水域におけるデータと重ね合わせることで、漁港施設の標準断面と被災状況を重ね合わせて視覚的に確認することが可能となっている。
能登半島地域の復興に当たっては、①短期的な生業再開のための仮復旧、②中長期的な機能向上のための本復旧、といった2つのフェーズに分けて検討を進めることとなっており、能登半島の創造的な復興に向けた「復興方針」を作成し、その実現を目指すこととしている。
発表3漁村漁港の再生推進方案
李 鎭旭 氏(韓国漁村漁港公団 再生事業統括室長)
政府はこれまで疎外されてきた漁村漁港を近代化するため、2019年から「漁村ニューディール300事業」を推進し、海上交通・定住環境の改善などの成果を創出したものの、漁村消滅問題への対応には限界があった。漁村消滅に取り組むためには、漁業基盤の拡充に向けた支援から医療、福祉、文化などの生活環境を改善し、漁村に新たな雇用を創出し、漁村の活力を向上させる必要がある。
これに対し、海洋水産部は漁村に2030年までに3万6千人の雇用を新たに創出し、生活の質を都市レベルに引き上げるとともに、生活人口を200万人増やすことを目標に、5年間、300の漁村に3兆ウォンを投資する漁村新活力増進事業を推進している。
漁村の規模と特性に応じて体系的に支援するため、① 漁村経済プラットフォームの造成、②漁村生活プラットフォームの造成、③漁村安全インフラの改善など3つの類型に分け推進している。
第一の類型である漁村経済プラットフォーム事業は、 水産業基盤地域を漁村経済の拠点として育成することを目標とする。国家漁港など水産業基盤地域に財政支援とともに民間投資を誘導し、漁村経済・生活の中心的役割を担うダイナミックな「漁村経済拠点」25ヵ所を選定する。
このため、政府は2027年まで毎年5ヵ所を選定し、合計7,500億ウォン(1ヵ所あたり300億ウォン)を支援し、水産物商品化センター、親水施設などの基盤施設を造成し、地域の特性を考慮し、水産物流通・加工センター、海洋観光団地など高い付加価値を創出できる複合施設に対する民間投資を呼びこむ計画だ。
第二の類型である漁村生活プラットフォーム事業は、都漁村の定住・経済環境を改善し、都市に出かけなくても生活できる「自立型漁村」 を175ヵ所形成する。
地方漁港、定住漁港など中規模の漁港と周辺地域を対象に毎年35ヵ所を事業対象地として選定し、計1兆7,500億ウォン(1ヵ所当たり100億ウォン)を投資する。これにより、新規所得源を創出し、所得形態の多様化を支援する一方、住居基盤と生活サービス空間も整備する。
最後に、漁村安全インフラ改善事業は、小規模漁村に不可欠な安全施設の拡充を目指す。住民の安全を脅かす生活・安全施設を改善し、小規模漁村100ヵ所の最低安全水準を確保する。
発表4日本における海業の推進について
加藤 健太郎 氏(水産庁 漁港漁場整備部 計画課 利用調整係長)
漁村では、全国平均を上回る速さで人口減少や高齢化が進行し、活力が低下している。一方で、漁村の交流人口は約2千万人と大きなポテンシャルを有しており、豊かな自然や漁村ならではの地域資源の価値や魅力を活かした海業※の推進により、地域の所得向上と雇用機会の確保を図ることが必要である。
日本国内での水産物の消費量は年々減少しているが、直接産地を訪問して水産物を消費したいというニーズは高まっており、こうした消費者ニーズの変化に対応して、水産物の直接消費や漁業体験など貴重な体験の場を提供していくという役割が、漁港において求められている。
漁港は、日本全国に約2,800港あり、漁業者や漁船は以前と比べて減少しており、地域の漁業の実態に合わせて、漁港機能を再編・整理することで、海業の場として活用するスペースを創出し、創出したスペースにおいて海業を展開していきたいと考えている。
また、海業の推進にあたっては、漁業協同組合を含む民間事業者の資金や創意工夫を活かして、新たな事業活動が発展・集積するよう、漁港において長期安定的な事業運営を可能とするため、漁港漁場整備法を改正し、漁港施設・用地及び水域の利活用に関する新たな仕組みを導入した。これまでの漁港漁場整備法においては、整備や維持管理について規定されていたが、法の目的に「漁港の活用促進」を追加し、漁業上の利用を前提とし、その有する価値や魅力を活かし、水産業・漁村を活性化するために「漁港施設等活用事業」制度を創設した。
今後、この仕組みの下、各地域において海業が推進され、水産業の発展に寄与するよう、取り組んでいきたいと考えている。
- ※ 海業:海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する事業であって、国内外からの多様なニーズに応えることにより、地域のにぎわいや所得と雇用を生み出すことが期待されるもの。
発表5帰漁帰村政策の推進状況
鄭 道燮 氏(韓国漁村漁港公団 帰漁帰村総合センター長)
漁村は海洋領土の防衛、漁村社会の維持、水産資源・海洋環境保全、安全な水産物の供給という公益的機能を果たしている。しかし、韓国の漁業人口は1967年の114万2,761人をピークに、人口流出、少子化などにより持続的に減少しており、2023年には87,115人を記録した。一方、高齢化率は47.9%に達し、漁村消滅の危機が加速化している。漁村地域の消滅危険地域の割合は2015年の31.2%から2045年には87%に達するという見通しである。
政府は2014年に帰漁帰村活性化方案を策定し、体系的な帰漁帰村支援の礎を築き、2015年に「帰農漁・帰村活性化及び支援に関する法律」を制定し、制度的基盤を構築した。2018年5年単位総合計画である第1次帰漁帰村支援総合計画を策定・実行することで、関心→準備・実行→定着の段階別帰漁帰村支援体制を確立した。帰漁帰村の支援機関として、2016年に韓国漁村漁港公団(旧韓国漁村漁港協会)を帰漁帰村総合センターに指定し、2023年までに8つの市・道で地域帰漁帰村支援センターを指定し、7つの市・道で帰漁学校が運営されている。
帰漁人口は2013年690人から2015年1,073人に増加した後、2020年967人まで減少傾向にあったものの、2021年1,216人に大きく増加した後、2022年再び1,023人に減少し、40歳未満の若者帰漁人口は停滞している。
2023年から5年間推進する第2次帰漁帰村支援総合計画は、政策対象を帰漁者だけでなく、帰村者と一般国民まで拡大し、帰漁帰村の裾野を広げることに重点を置き、 「若返る漁村、活気あふれる海」をビジョンとし、4つの戦略、12の課題を抽出して実行している。
都市住民との接点を拡大する戦略では、帰漁帰村認知度向上(ブランド開発、広報媒体の多様化、知能型帰漁帰村統合プラットフォームの構築、案内サービスの拡大)、漁村関係人口の拡大(漁村暮らしプログラム、漁村体験プログラムの拡大)、都市資本の漁村投資経路拡大(漁村資産投資ファンド、漁村クラウドファンディング)の課題を推進する。
帰村人口拡大戦略では、若者人材の創出(漁村体験休養村の参加活性化、漁村資産の創業活用)、漁村住民と帰村者が融和する漁村づくり(葛藤解消支援、コミュニティ融合支援、誰もが住みやすい漁村)、住みやすい漁村に生まれ変わる課題(漁村・漁港景観改善、漁村住民の交通権改善)を推進する。
帰漁人口増大戦略では、帰漁教育課程の標準化・専門化(帰漁教育機関の力量強化、現場教育の強化、メンタリングの拡大)、帰漁者の就・起業集中支援(初期負担緩和支援策、帰村から起業まで段階的支援)、帰漁者の多様な需要を反映した住居支援課題を推進する。
ガバナンス構築戦略では、帰漁帰村実態調査に対する国家承認統計の指定推進、帰漁帰村ガバナンス体系の高度化(帰漁帰村専担機関の役割強化、帰漁帰村連合会の設立など)、安全な帰漁帰村システムの構築課題を推進する。
総合計画の推進を通じて、2027年には帰漁村者82,000人、帰漁者1,800人を誘致し、若者帰漁者の割合を18%まで拡大することを目標としている。 持続的な人口減少傾向の下で容易ではない目標だが、このような取り組みを通じて漁村がより活気あふれる空間になることを期待する。
発表6漁村振興の方策としての海業の展開について
海老原 碧(漁港漁場漁村総合研究所 第3調査研究部 研究員)
1.はじめに
水産庁は地域資源の価値や魅力を活かした海業を推進し、新たな海業等の取組をおおむね500件展開することとしている。
そうした状況を踏まえ、漁村総研は海業の展開を支援し、地域振興の手助けをしている。
本編では、消滅危機に対応するための漁村振興の方策として、海業の展開方向を紹介する。
2.福井県小浜市阿納地区の事例
漁港を活用した体験交流施設では、児童達が釣り堀で鯛を釣り、捌いて食べることができる。漁業者の集まりである民宿組合が運営しており、春と秋の観光客減少を補うため学校行事の教育旅行を取り入れた。結果、6,000人以上の観光客が訪れ、収入の約85%が地元に還元されており、民宿の廃業防止と漁業集落の維持に貢献している。
3.岩手県田野畑村の事例
漁村の地域資源である断崖を漁船で巡り、番屋小屋での料理を食べるといった体験型観光プログラムを提供している。通過型観光から脱却し、住民とNPOが協議会を設立して漁村観光の付加価値を高めた。東日本大震災で大きな被害を受けたが、漁村観光の再開を原動力に復興に取り組み、観光客数は6,100人に増加。これらの取組が地元の活力に繋がっている。
4.福井県高浜町の事例
地元の魚の価値を上げるために食堂、スーパーマーケット、イベントスペースからなる六次産業化施設を整備。町全体を活性化させるため、漁協と地元魚問屋が出資して企業を立ち上げ2021年に運営を開始。今年から海鮮BBQの試験営業も始め、高浜町の「食べる」「遊ぶ」「買う」「見る」を紹介し、漁村振興を図る。
5.おわりに
海業は漁村振興の方策として有効であり、地域の持続可能な産業としての可能性を秘めている。アイデア次第で可能性が広がるが、地域一体となった取り組みと創意工夫が求められる。
以上より、海業により漁村は再び活気を取り戻し、未来に向けた持続可能な地域の構築が実現できるのではないだろうか。
おわりに
発表終了後の質疑応答、意見交換会では活発な議論が展開されました。閉会後、参加者による記念撮影が行われました。
- ※ 各発表者の概要は、発表要旨より再編集したものである。
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会議中の写真
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集合写真
第24回 日韓漁村漁港漁場技術交流会議 現地視察
(韓国全羅南道 木浦市・麗水市)
技術審議役 岩本 泰明
第3調査研究部 海老原 碧
はじめに
交流会議終了後、チャーターしたバスで2日間にわたり全羅南道(主に木浦市、麗水市)に整備されている水産関連施設の現地視察を行いました。全羅南道は、三国時代には百済に属していた地域で、日本の中国地方と同緯度に位置しており、比較的温暖な気候が特徴です。西側と南側が海に面しており、リアス式海岸の入り組んだ地形に2,000余りの島々が存在している世界的にも美しい多島海の地域です。今回は、この現地視察の概要を報告いたします。
現地視察概要
- 木浦水産食品支援センター
- 木浦水産協同組合
- 木浦市 高下島
【6月27日(木)】
- 木浦水産協同組合 競り見学
- 宝城大韓茶園
- 麗水市 菊洞港・国東港
- 麗水市 梧桐島
- 麗水海上ケーブルカー
【6月28日(金)】
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地図
現地視察内容
【6月27日(木)】
⑴ 木浦水産食品支援センター
水産食品産業の発展と雇用創出を通じた地域活性化に貢献することを目的に、2015年に設立された海洋水産部が指定する第1号の海苔産業専門機関である。
韓国西南海の豊富な水産資源を活用した地域の水産物ブランドを開発し、高付加価値の水産食品を研究、開発している地域の大学や研究機関、企業、自治体と協力し、水産食品産業を育成に寄与している。
主要な事業は、のり産業専門機関として、全羅南道のり産業飛躍のための技術支援事業、海藻類国際共同研究開発事業、木浦おでんHACCP加工工場の運営などである。
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ごま油の香りが漂うセンター内
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センターで商品化されている一部日本にも輸出を行っている
⑵ 木浦水産協同組合
全羅南道の南西部である木浦市、羅州市、務安郡、霊岩郡、咸平郡を管轄とし、業務区域の海岸線は388kmであり、全羅南道の16%を占めている。木浦水協は1937年に設立され、80年の間に地域経済の一軸を成し、4,231人(男2,944人、女1,284人、法人3人)の組合員、48の漁村契(漁業共同体)が所属している大規模な水協である。2020年、2021年と2年連続で韓国国内での水揚げ量は1位である。
主要な事業は、漁業者の安全操業のための指導事業、操業から流通に至る経済事業、顧客の金融資産を安全に運用する金融共済事業などである。
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木浦水協外観
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木浦水協組合長と集合写真
⑶ 木浦市 高下島
高下島は木浦市管轄の島で、木浦から約2km離れた沖に位置する。高下島と本土側である木浦北港をつなぐ木浦大橋が2012年6月に開通した。高下島一体では漁村ニューディール300事業※1を行っており、事業費は123億ウォン、事業期間は2021年~2024年の4年間と大規模な整備である。主要事業の内容は高下島港環境整備(防波堤・物揚場、船着き場の拡張)、住民福祉空間造成(環境に優しい駐車場などの空間整備)、高河島安心村環境整備(村の中に安全な道を整備)、住民共同体事業基盤造成(農林水産物売り場整備)などである。
- ※1 韓国水産部が韓国国内の300箇所の漁村・漁港の近代化を通じ、夜間観光の活性化と漁村革新を牽引するものとして推進する事業
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高下島港前にて説明
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高下島港整備箇所
【6月28日(金)】
⑴ 木浦水産協同組合 競り見学
午前4時50分に木浦水協に到着すると、市場には、すでに水産物がずらりと陳列され、魚で埋め尽くされていた景色は圧巻であった。見学当日は、タチウオが最も多く陳列されていた。今回は3部あるうちの鮮魚部※2を見学した。視察時の概要を以下に紹介する。
- 年間取扱量:17万トン
- 取扱金額:1,200億ウォン
- 漁法:鮟鱇網、刺し網
- 仲買人:31名
- 鮟鱇網操業期間:10日程
- 鮟鱇網操業人数:(大型船)12名程、(小型船)6名程
- 鮟鱇網漁船:(大型船)50トン、(小型船)19トン
- 市場手数料:4.5%
- 競り時間:午前5~8時
- 主な取扱魚種:ニベ、タチウオ、イシモチ、ガンギエイ、フグ、ワタリガニ、カマス等
【木浦水協産地卸し市場・鮮魚部】※3
- ※2 鮮魚部、えび塩辛部、活魚部で構成。
- ※3 同行してくださった東海大学 李銀姫教授より情報を頂いております。ご協力ありがとうございます。
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競り前に並べられた水産物
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競りの風景
⑵ 宝城大韓茶園
宝城にある韓国唯一のお茶観光農園である。大韓茶園では日本から伝わったお茶栽培技術により、味と香りが野生茶のような有機栽培の高級緑茶が生産されている。海抜350mの峰に登ると海まで広がる風景が壮観である。発生する霧によって直射日光が当たらず、渋みが発生しづらいとのことである。山里一帯が見下ろせる山麓に位置した農園は30万坪にもなる広々とした平原を形成している。大韓茶園では「ボンロ(峯露)」という名で全国のお茶専門チェーン店にて提供している。最近は韓国茶の人気が高まり、農園を訪れる人が増えている。
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宝城大韓茶園 ドラマのロケ地などにも使われる
⑶ 麗水市 菊洞港・国東港
麗水市漁港団地路に位置した菊洞港は水産・観光・文化など複合多機能漁港の機能を遂行し、利用漁船数、接岸施設規模、水産物処理能力が韓国1位の国家漁港である。浦としての地形が菊の花に似ていたため、「菊浦」と呼ばれていたものが、現在の「菊洞港」の名前の由来となった。
菊洞港に隣接する同じ国家漁港である国東港では係留施設、外郭施設などの漁港機能を拡充。強化する建設工事を行っている。
【国東港建設工事概要】
- 事業規模:小型船埠頭780m、浮桟橋12箇所(計1,209m)、突堤式埠頭220m、防波堤100m、連結橋梁1式等
- 総事業費:1,414億ウォン
- 事業期間:2024年~2030年
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菊洞港水辺公園前にて説明
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菊洞港水辺公園前にて集合写真
⑷ 麗水市 梧桐島
麗水市にある島で、遠くから見ると島の形が桐の葉のように見えること、桐が多いことから梧桐島と呼ばれるようになった。現在は随所にこの島の名物である椿を始め、193種の珍しい樹木が森を形成している。1933年に長さ768mの防波堤の道が竣工され、陸地と連結された。1968年には閑麗(ハルリョ)海上国立公園に指定され、防波堤の道路を走る列車や遊覧船、モーターボートなどのアクセスがあり、海岸線の美しい風景を楽しむことができる観光地化している島である。
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背後に広がる防波堤の遊歩道
⑸ 麗水海上ケーブルカー
麗水市にある海上ケーブルカーで、2014年12月にオープンした。香港、シンガポール、ベトナムに続く、アジアで4番目の海上を通って島と陸地を繋ぐ韓国初の海上ケーブルカーである。紫山公園の紫山乗り場から突山島の突山公園にある乗り場までの1.5kmをつなぎ、海上80~90m上空を時速5kmで運行する。麗水市内を一望でき、麗水市の中心的な観光資源と位置づけられている。
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麗水海上ケーブルカー
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麗水の夜(屋台村)
おわりに
新型コロナウイルスによりしばらく開催されなかった日韓漁村漁港漁場技術交流会議ですが、昨年の東京開催に続き、6年ぶりに韓国での開催となりました。
今回は韓国の南西部である木浦市内で開催され、金浦空港から約5時間バスに揺られながら向かいました。個人旅行ではなかなか木浦市を始めとした全羅南道に行く機会はないと思い、情緒溢れるレトロな景観を堪能しました。余談ではありますが、木浦地域の郷土料理である「ホンオフェ※4」というガンギエイの切り身を壺に入れて発酵させた、世界で2番目に臭いとされている珍味を2回ほど食べました。舌に感じる刺激と気絶しそうな味わいで一生忘れられない思い出となりました。また、宿泊したホテルの部屋で害虫を発見し、ホテルのフロントマンに、拙い英語や韓国語、翻訳アプリを駆使しながらも1時間程格闘したのもいい思い出です。これも海外出張の洗礼であり、醍醐味だと思います。トラブルは続きましたが、韓国漁村漁港公団の同世代の方と意気投合し、水産業を盛り上げようとする両国関係者の気持ちは一緒なのだと実感しました。バス移動を始め、食事、ホテルなどを手配してくださった韓国漁村漁港公団の皆様に深く御礼申し上げます。
- ※4 ホンオ=ガンギエイ、フェ=刺身