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水産業へのデジタル技術の活用を考える
~次世代の水産業の実現~
1イントロ
漁業生産量の減少、漁業就業者の高齢化や減少、厳しい現状に直面している水産業を未来にわたって持続させ、成長させる産業としていくためには、水産業の各段階でさまざまなデジタル技術を活用することは一つの有効な手段であり、必要な取り組みです。デジタル技術を活用することで、各種データに基づく効率的な操業や省人化、省力化による収益力の高い漁業の実現が期待されまして、漁獲データが正確に把握できることは水産資源の評価・管理にも役立つと考えられます。
また、市場では、生産現場と漁獲データの共有や、競り、入札などの市場取引業務がデジタル化されることによって作業が効率化されるだけではなくて、成長産業化に向けた新たな販売体制の構築も期待されるところです。これ以外にも、生産と加工、流通が連携するデジタル技術の活用によって水産バリューチェーンの全体の生産性が向上するとともに、これらの情報を活用した新たな産業への展開も期待されるところです。
本日は、さまざまなデジタルの活用によります水産業の持続的な成長産業化をテーマとしたシンポジウムとして進行させていただければと思います。
2各パネラーの自己紹介と取組内容
※パネリストの役職名については、令和6年11月の講演時点のものです。

- 和田 雅昭氏
- 公立はこだて未来大学 副理事長・副学長
和田 今日は非常にバランスのいい、またその分野にとってはこの人しかいないだろうという方に集まっていただきまして、お話を聞くことができるかと思いますので、この後のお時間を皆さんと一緒に過ごしていきたいと思います。
最初に、パネラーの方々から、お取り組みの内容と自己紹介を兼ねた形のスライドを紹介してもらいたいと思います。

- 斎藤 克弥氏
- (一社)漁業情報サービスセンター システム企画部 部長
斎藤 今日はこれまで我々が取り組んできたスマート水産業の話をさせていただきたいと思います。
まず漁業情報サービスセンター(JAFIC)についてですが、設立されて約50周年になります。海から魚まで、漁海況全般の情報を取り扱うというのが主務となっています。
業務は大きく分けると、情報サービス、データベース、研究開発の3つに分けられます。特に情報サービスについては、早くからDXを進めてきた部分もあり、漁業情報サービスセンターが提供している『日本周辺漁海況情報』は週報としてカラーの水温図に漁場がプロットされているGISライクなマップと、詳細な漁海況の解説で構成されています。それから『エビスくん』、これは多くの漁船で利用して頂いている洋上の漁船向けの漁海況情報サービスで、ノートPCやタブレットで海面水温や気象情報などを閲覧することができます。この他にも『おさかなひろば』という魚の価格などの市況情報の情報配信も行っています。
特に沖合漁業に関しては、『エビスくん』のサービスで、かなり早くからDXを推進してきました。最新の海面水温図や気象情報を洋上の漁船で複合的に閲覧することができます。現在、AI等を利用した漁場予測や最新の市況情報など、水温に限らずいろいろな情報を見ることができるようになっています。漁師さんたちはこれを見れば漁に必要な情報が全部得られるわけです。利用者アンケートや現場の意見交換などでも、操業に役に立っているという意見を多数頂いております。
漁業情報サービスセンターでは他にも様々なDXに関する技術開発を行ってきました。例えば衛星から赤潮の種類を判別する試みですが、これは名古屋大学と連携して技術開発しました。また先ほど言いましたAIによる漁場予測や大型クラゲ(エチゼンクラゲ)のWebGISによる情報配信などの技術開発を進めてきました。正直、DXという意識でこういった技術開発をやっていたわけではなく、必要なのでやっていたという感じです。
ここで少し余談ですが、赤潮の種判別やAI漁場予測というのは、言うは簡単ですが、実際にやってみると意外に難しいのです。最近はいろいろなベンチャー企業なども参入していますが、答えは出るが実際の現場情報とは簡単にマッチしないということで開発者も利用者も注意が必要ではないかと思います。
色々な海域で収集されている様々な海洋環境データを連携するためのネットワークを作る取り組みも推進しています。これらに関しては水産庁のホームページにも掲載されていますので、ぜひご覧になっていただければと思います。ばらばらにネットに存在する海洋環境データをつなぐ取り組み、データ連携基盤と呼んでいますが、定置網や養殖施設に設置された海洋観測ブイ等で得られた水温等の環境情報を一元的に管理して、それをしっかりしたセキュリティ管理の下でデータ連携することで、日々の操業に活用したり、不漁原因の究明など研究開発にも活用することを目指して開発をしてきました。登録されたブイも増えて本格的に稼働しつつあります。マップ上にブイがプロットされて、そのデータを表示する、それを携帯等で簡単に閲覧できます。さらにそのデータをWeb APIで取得する仕組みも動いています。
さらに一歩進んだ取り組みとして、養殖施設に設置されたブイの水温データを閲覧するために漁師さんが使っているアプリと、JAFICの衛星データを配信するシステムをAPIで連携するトライアルを実施して、ブイ水温閲覧アプリから衛星海面水温図を見られるようにしました。これをやったところ、衛星画像を見た漁師さんたちからブイの水温に加えて広域の水温画像が見られるということで、大変興味を持ってもらうことができました。
それから、異業種データ連携もスマート水産業の重要なテーマだと考えています。たとえば海運業とのデータ連携です。現在JAFICでは、商船三井、日本郵船、川崎汽船の海運大手3社に協力していただいて、ShipDC(㈱シップデータセンター)に登録された商船観測水温のデータをAPIを使って入手して、我々が作っている海面水温図の高精度化に活用しています。商船は漁船のいない場所の水温を観測しているわけですから、非常に新しい取り組みであり、漁船と商船で新しいシナジーを生む面白い取り組みです。ShipDCは水産分野よりもDXが進んでおり、非常に連携しやすかったと言えます。
簡単にまとめると、スマート水産業はイメージとしてこのよう(図1)になるのではないかと思います。
現場で発生するデータをデジタル化する、ネットワークでデータを連携させる、それを資源管理に活用する、それから今日のテーマであるところの海の見える化や成長産業化に活用する、というのがスマート水産業の姿だと思います。最近はその先の姿も考える必要があると感じます。海業とのコラボ、魚や商品のブランド化、さらに海外展開と、そういった少し先も視野に入れてやっていくことが必要になると思います。
今現在、データのデジタル化などは色々な場所で積極的に進められているところで、さらにそのデータを分析する、データ連携するといった部分も進みつつあります。データを活用するという部分は、これからもっと推進しなければならないところであり、さらに先にある、海業などとのコラボのような高度な利用についても考えていかなければならないといと思います。今日も海業の話がありましたけれども、重要なテーマだと考えています。
最後に、データの利活用がどんどん進んでいくと、やはり心配なのが勝手にデータを使われる、外部にデータが流出するという問題です。これは非常に重要な問題でしっかりとルールを決めずにデータ連携などしていると、後々そのデータがどこかで勝手に使われて、結果的に自分が不利益を被るということがあり得るわけです。これはすごく注意しなければならないことだと思います。DXやデータ連携する際はきちんとルールを決めましょう、しっかり契約しましょう、ということなのですが、これに関しては水産庁でガイドラインを公開しています。データ利用ルールについては、これから最も注意しなければならない問題の一つだと思います。

図1 スマート水産業のイメージ

- 松本 浩文氏
- 水産大学校 海洋生産管理学科 准教授
松本 私のほうからは、山口県下関での取り組みということでご紹介させていただきます。
まず一つは、デジタル技術を活用した漁業支援ということでご紹介します。
お話しする底引きというのは、2そう引きですので、2隻で1つの網を引くのが下関では6ヶ統あります。ご紹介するシステムは、今、20隻に入っていまして、それ以外ですと、島根や愛媛の八幡浜のほうで導入しています。
今までは魚を取って、沖で選別して箱詰めし、最後は紙になる点に着目しました。沖で、サイズ別に選別し、箱がそのまま市場に上がってきて、非常に魚種が多い中で、この整理に非常に時間がかかっていたということで、デジタル化に進んでいきました。
ではどういったことをしたかというと、いろいろな魚が取れ、箱建てした部分にGPSなどの情報を付けたらいいのではないかという、非常にシンプルな考え方です。
これの着想点は、GPSなどのGNSSの情報に船名や、静的情報や航海関連情報が付いていくと、それによって価値が生まれていますので、そこに漁獲の情報がデータとして付けば、さらに価値が上がるのではないかというところです。
また一方で、漁獲の情報を収集することで、なかなか受け入れられないのではないかという声もあったのですが、逆に言えば、そこに価値を見いだしてくれれば、そのものは離さないのではないかといったところで、チャレンジをしています。
こちら(図2)がアプリでして、真ん中から上は漁獲の情報で、下は漁船の状態を示すようになっています。特徴としては、アプリを開けば画面に行くので何かの情報を取りに行くのに、何回か操作しないといけないということはなく、この情報で全て更新されていくようになっています。

図2 アプリの画面
上の方は、最新の浜値で漁獲の水揚げをする金額が算出されこれが漁業者の一つのモチベーションになっており、インセンティブにも変わっていることになります。
下の方は漁船の情報で、投網中ですとか、航海中ですとか、どの船が今、網を入れて、どれぐらいの時間をかけて、どのような魚を狙っているかというのが分かるようになっています。
入力すればブリッジにいる漁労長、もう片方の船、会社の方と常に共有されることになっています。皆さん、どれぐらい取れたのかというのが気になるので入力もすぐしますし、会社の方も見ていますので、確実に情報を入力することになっています。
後は付随したもので、漁協や船だけではなくて、それに関係する市場を含めて、業者さんなどを取り込んで、漁協を一体化していこうというところを大事にしています。入港メールは船が何時に入ってくるというのが1回の入港に関して3回メールが来るようになっており、いろいろな関係者に送っています。
メールで船の入港時間を伝えることで、例えば夏場であれば、業者さんが冷凍物もこのメールの情報に従ってぎりぎりの時に船に持ってくるということになっています。
あと、漁獲の情報が紐づけされていますので、同時に箱詰めしますので、箱の消費もカウントするようになっていて、箱の業者さんにメールが飛ぶようになっており、業者さんの方は、発注が来る前にだいたいの予測を立てていますので、倉庫に準備をしています。もっと言い換えれば予備品の管理で、究極は、倉庫もそれだけ借りる必要もなくなってくるということになります。

図3 漁獲データの入力
次は、市場とどう連携するかという話で、卸しの方で、市場の方で、どの船で、今、どのような魚がどれだけ取れているかというのがリアルタイムで分かるようになっています。
あとは、何日に入港予定かという生産者の方から来る情報を基に市場では競りをするのですが、1回に5日とか6日間操業して帰ってくるのですが、毎日、卸売業者さんが競りをして、その過程で仲買人さんからもいろいろなニーズなどを把握しています。
その情報を、魚種ごとのニーズとして5段階評価して、沖の方に返していくデータの連係を始めています。これはもう3年ぐらいたちます。
あと、最近、一生懸命取り組んでいるのですが、私たち下関は沖の情報が毎日来ますので、魚を水揚げする前に箱の情報が入ってきますので、もう水揚げする前にデジタルで並べることができるわけです。今まででしたら、市場で水揚げされて数を確認して、魚種を確認して、チェックして、それから競りなのですが、生産者の情報がそのままこのアプリに飛んで、どの魚種がどれだけ上がるか、それを実際に確認してチェックしていくだけで、今度はこの情報を仲買人等に連携していく取り組みをしています。
ただ、これを実際にやっていくと結構大変で、今、苦労しているのは、販売システムや仕切書、請求書などにつながらなかったら二度手間になってしまうということが出てきますので、どうそこをつなげるかというのが、一生懸命取り組んでいるところです。
ただ、システム全体を換装するとかなりのお金がかかりますので、私たちが取り組んでいるのは、既存の情報とそれを繋げることです。既存システムは残した上で、新たなデジタル情報をそこに繋げていくことでコストを安く、そしてデータ連携をさらにその川下までつなげていくことに取り組んでいます。

- 間渕 塁氏
- 銚子市漁業協同組合 総務部 洋上風力推進室 係長
間渕 銚子市漁業協同組合のデジタル化への取り組みについて、斎藤先生、松本先生のお話は、主に漁業者さん側にメリットが大きい話だったと思うのでが、私がお話しするのは、実際に市場の業務として、市場運営のところに携わる話になると思います。
銚子漁港がなぜ電子システムというものを導入したかというところで、当時、銚子漁協が抱えていた課題で、まず漁協職員の人手不足がありました。これは、日本全国、どの業種でも同じことだと思うのですが、農業でも漁業でも後継者不足という話があり、漁協の職員も、かなり人が減ってきています。そうすると、業務効率の低下が起きてきました。
続きまして、市場建て替えに伴う高度衛生化対策について、銚子漁協は、第1市場から第3市場まで3つの市場があります。そのうちの第1市場を2015年に高度衛生管理型市場として建て替え、第3市場も今年、高度衛生管理型市場として建て替えが竣工し、既存の市場と比べて、高度衛生管理型市場というのはかなり制約が多くあり、業務内容自体がかなり増加しています。特に衛生管理の記録などがかなり業務として増加している現状を踏まえて、このような課題を電子入札システムの導入によって解決していこうということで電子入札システムを導入しました。
電子化としてどのようなことをしたかというところで、今、5つあります。

図4 デジタル化の全体イメージ図(銚子漁協)
インターネットを利用した情報提供では、入港船、水揚げの速報、具体的には何々丸が何時にどのような魚をどのぐらい持ってきますという情報が市場に入った段階でホームページに情報公開していきましょうということです。それと水揚げの仕切書や買受人さんへの請求書で、今まで紙媒体で配布していたものをHPに公開することで、HPからダウンロードしてもらおうという取り組みになります。
衛生記録の情報管理に関しては、高度衛生管理型市場に変えるに伴って出てきた業務で、各職員の衛生状態を毎日チェックする必要があり、そのチェックをタブレットで行いましょう、またそれを、パソコンで上長が確認、承認ができるようにしましょうという取り組みです。
水揚げ情報の外部出力については、JAFICさんや、千葉県、水産試験場などに毎月なのか、毎日なのか、いろいろ情報を提供しているのですけれども、それをデジタル的にできればという取り組みです。
水産流通適正化法への対応としては、令和4年度でしょうか、ナマコ、アワビの管理をきちんとしなさいという法律が出来上がり、漁獲管理番号の伝達で、届け出番号の管理などをデジタル的にやっていきましょうという取り組みです。
そして最後に、電子入札システムの導入です。これの実現が市場の運営にとって一番重要になってくるところなので、少し深掘りして話をしていきます。
販売システムとは、市場運営に関しては入船から荷受け、水揚げ、あと電子入札、荷渡し、仕切書作成という作業があり、全てを電子データで一元管理していきましょうという取り組みです。

図5 魚市場業務のデジタル化(銚子漁協)
まず入船予定が船から来たら、パソコン上でデータとして蓄積し、それを大型のモニターやHPで掲示します。続いて、荷受け、選別、計量で、水揚げがあったら、規格ごとに選別、計量し、その情報をタブレットで帳面として取ることで作業の効率化、情報の共有を実現していきましょうという話です。
続いて、その情報を基にして販売をします。そこで、今回、力を入れてやった電子入札というのが出てくるのですが、スマートフォンから入札に参加します。自動落札判定によって市場内の大型モニター、買受人さんたち、自分たちのスマートフォンに結果が表示されるようになりました。
それが終わった後、荷渡しで、入札結果発表と同時にプリンターからどこの買受人さんが幾らで落札しましたという札が出てくるので、それを魚に貼って荷渡し完了です。
その後に精算請求書を入札データを基にして発行、またはHPに載せていくというプロセスになります。
特に重要なのがこの電子入札のところです。今回の販売システムの肝になるところなのでが、何で電子入札を導入していくのかというと、入札業務の効率化、滞留時間の短縮による鮮度の維持2つを目的として取り組みました。
従来から変わるところは、手書き札から電子入札へ、従来は買受人さんが1枚1枚、例えば番号が1番から60番まであった場合、1番は幾ら、2番は幾らと60枚書いて、それを箱に投函していたものをスマートフォンによって入札ができるようにしました。
1つの番号について1枚、60番まであったら60枚入ってきます。うちの場合は200人ぐらい買受人がいるので、1つの番号につき200枚の札が入ってきます。それを、従来は人の手で一番高いのを探していました。そういうのが無駄だという話で、コンピューターに任せるのが一番いいだろうということで、作業の効率化、時間短縮、あとは人為的なミスの防止ということで自動開札を行っています。
入札結果履歴の閲覧が可能ということで、その日に自分が入札したものや、市場全体で他の買受人さん全員が入札したデータが自分のスマホから見られるようになっています。今まではそれが知りたかったら、全ての魚の落ち札を見て番号を控える、メモ帳に控えるなどの作業をしていたところが、スマホからデータとして見られるようになりました。
電子入札システムはどうやってやるのかというと、入札の端末について、われわれとして拘ったところで、買受人さん自らが所有するスマートフォンで入札します。例えば市場さんが貸し出したタブレットでという所はたまにありますが、われわれは、自分たちの所有するスマートフォンを利用しています。
ここら辺はシステムの利用方法なのですが、インターネットの接続環境はWi-Fiを飛ばしている所ではなく、自分の携帯のキャリア回線を使ってもらいます。ログインは専用URLからログインIDとパスワードを入力してシステムを使ってもらいます。あとは、市場が3つあるので、各買受人さんごとに3つずつIDを発行して入札できるようにしています。
具体的にどのような形でやるのかというと、まず入札に参加するためにログインIDとパスワードを打ち込んで、自分のページに入ります。そこから入札開札中の情報を参照して、希望する入札を押します。例ですけれども、第3市場、No.1で黄色の1番、かわぐち丸がキンメを入札中です、とかわ丸がキンメを入札中ですという情報があって、どちらか自分が参加したいものを選択します。
そうすると、その入札の中で1番からずらっと、1番、2番、3番、4番、5番と、各品物が表示されるので、例えばこれですと、5番のクロムツ山という所をタップして、幾らですという情報を打ち込みます。それをどんどん、欲しい物については全部やっていった後に、入札締め切りの時間が来て、入札結果が一瞬で発表されます。ここで、今までは200枚の札を人が選んでいたということです。
そうすると、例えば3番であればクロムツの山を鈴木さんが1,500円で落札しました。4番であれば青柳さんが1,300円で落札しましたという情報が全て表示されるという形で電子入札として成り立っているという形になります。
ここからは、銚子漁協が今後どうしていきたいかという話です。新しくできた第3番市場で、まず今月から電子入札を全面的に開始しました。第1市場は主にはえ縄のマグロ類を扱っているのですが、2025年の初めぐらいに電子入札を開始できればという予定にしています。
第2市場に関しては、まき網のサバ、イワシ類などがメインになっているのですが、第2市場でも2025年以降、順次、電子入札化に向けて検討を始めてます。

図6 スマートフォン画面イメージ(銚子漁協)

- 小野寺 幸史氏
- 宮城県気仙沼市 産業部水産課 主幹兼係長
小野寺 昨年度から気仙沼市が取り組み始めましたデジタル水産業戦略拠点事業(以下、「デジ水事業」という)の概観についてご紹介したいと思います。
このデジ水事業は気仙沼市にとっては、平たく言えば地方創生の動きそのもので、デジ水事業が気仙沼にとって地方創生に至る経過として、気仙沼のことを簡単にご説明させていただきながら、デジ水事業について説明をさせていただきます。
まず、気仙沼の水産業というのは広くて深いのです。気仙沼の地域の弱点は、水産業が基幹産業とよく呼ばれているのですが、むしろ1本足打法に近いぐらい、水産業に傾注し過ぎていて、非水産業の比率が低い町です。つまるところ、魚が取れれば地域全体が潤うけれども、その逆もあり、水産業の結果が地域の結果に直接つながるという町です。
そのことから、気仙沼の水産業においては、漁業がいかに安定的に取れるかどうかということが地域経済の課題となってまいります。一方で、水産業は、元々、今日は取れたからよかったけれども、あしたは取れるかどうか分からないという不確実性が前提としてある産業だと、うちの町では捉えています。近年の漁海況の変化は、その不確実性をさらに増していると思います。
漁業の一番川上の段階において、取れるか取れないか、それが量として、金額としてどのぐらいになるのかというものの不確実性が、次の川下に行けば行くほど連鎖していきます。結果的に、経済活動として投資をする、企業経営として人員や機械の配置、投資といった、そういう計画については、長く計画的に組み立てられればいいのですが、水産業はなかなかそうもいきません。結果的に、常に不確実性を想定しながら各経営が伴うと。そこには、やはり歩留まりの悪さというか、一定の非効率さがあって、地域経済の成長の阻害だと捉えています。
そのことが、まず一つ大きくあり不確実性を軽減するという意味でのデジタル化に対する期待値、あとは生産力、生産性の効率化、あるいは労働力の確保という意味で、水産業が持続可能な産業に展開していくために必要な側面として、また、海業というものが最近にぎわってきており、これらをけん引する力としてデジタル化というものを位置付けることができれば、本市において地域経済の次の打ち手となるのではないかということが考えている道筋で、本市にとってのデジタル化というのは地方創生そのものだという組み立てになっています。
このデジタル水産業戦略拠点を進めるに際しては、各漁業、加工、流通といった幅広に漁業関係者の方々に入っていただいた他に、周辺の水産業の関係者のみならず、観光や商工団体、金融の方々にも入っていただき、また東京海洋大学にもお力をいただきながら、会長には気仙沼漁業協同組合の齋藤理事組合長に立っていただき、まさに漁業者のためのデジタル化を進めるための組織体として、昨年度、気仙沼市デジタル水産業推進協議会というものを立ち上げました。
きっかけは、昨年度、水産庁においてデジタル水産業戦略拠点の事業が始まるということがありそれに呼応して本市が動き始めたといういきさつです。
協議会においては、遠洋漁業から沿岸漁業、また流通に関わる方々、観光、商工に関わる方々と、広く気仙沼市のデジタル化の必要性について細かく議論をしていきましたところ、大きく5つの枠組みの中で必要なところが整理されていきました。

図7 デジタル化の5つの枠組み(気仙沼市)
一つは、遠洋、沖合の漁業において、洋上の船の方々が今まで以上に良い生活を送れるような支援の体制を陸上側から構築できないかということ、また、『エビスくん』のような漁業支援のサービスがこれまで以上に貢献できるような関わり方ができないかということ。
また、沿岸養殖においては、ことさらに沿岸漁業者の担い手がかなり減っているという喫緊の課題があり、労働力を確保するということを主要に考えたいということ、あとはスマート水産業というものについて、普及をしていきましょうという動きをつくっていくこととなりました。
水産データに関しては、各生産現場、流通現場、加工現場、それぞれにおいて水産データがクローズドに止まっている状態にあります。それらをオープンにつなげていく、連携していくことができないかということをテーマに走ることになりました。その結果、その水産データを用いたバリューチェーンをもって、地域の利益につなげていけるような取り組みを目指していきましょうという話になりました。
漁港の管理に関しては、気仙沼漁港が特定第3種漁港で、全国からさまざまな船が往来するという中で、接岸できる場所は限られ、現実には自由に使われているのですが、管理の利用については一定のルールがあり、それが適切に管理できているかというのは人間の紳士的な協定で動いていて、極めてアナログ的な管理がされているのをデジタル化、DX化ができないかという可能性を議論することになりました。
海業に関しては、観光PRに近いところですが、これまで以上に気仙沼にある海、水産業を用いた地域のにぎわいの可能性をデジタルベースで発信していくけん引にしていこうという話になりました。
このデジタル水産業戦略拠点においては、各領域において、まずそれぞれの問題を解決していこうというのが短期的な目標としてあります。続いて、それらの取り組みを進めることによって、遠洋漁業から海業までのそれぞれのデータが、ある種のデジタル水産業のデータとして、それぞれにたまっていくことになります。
同時に、そのデータは遠洋船や、あるいは漁港の岸壁のほうから何かしらの方法をもってデータを取得するというネットワークが自然と構築されていくので、このデータ基盤というものと水産業のネットワーク、それぞれの縦で収集するデータとネットワークを横でつないで、データが連係できるようなプラットフォームを目指そうということにもなりました。これが中期的な目標です。
最終的には、これらが地方創生として、気仙沼の水産業は中核産業の真ん中にありますから、ここの高度化によって全体的な関連産業の高度化につなげていこうという、理念的な話ですけれども、結果的に地方創生につなげていこうという枠組みです。
デジタル化に向けたロードマップについては、今、事実上は3年目に当たり、令和4年は助走期間というところです。令和5年度、水産庁さんのデジ水事業に呼応して具体的に立ち上がり計画の策定を進めてまいりました。本年からは、整えた計画をベースにして具体的なアクションを起こしていこうということで、令和6年から令和8年間においてデジタル田園都市国家構想交付金を用いて取り組んでいくという動きをしているところです。
やることとしては、昨年と同様に、まだまだ調査研究のところ、また、開発・実証というところが大きく占めていて、これを将来物にしていくためには、なお一定の時間がかかるのかなというのが肌実感としてあります。
最後ですが、本市では皆さまにご愛顧いただきまして、生鮮ガツオの水揚げは今年も28年連続日本一ということで記録を伸ばすことができました。感謝申し上げまして、私からの説明を終えさせていただきます。

- 粕谷 泉氏
- 水産庁 漁港漁場整備部 計画・海業政策課 課長補佐
粕谷 私からは、水産業を支えている漁港漁場整備の現場におけるデジタル化の状況を踏まえつつ、水産庁が行っているスマート水産業の展開の全体像についてお話できたらと思っています。
現在、水産庁が行っている水産政策の柱は、「水産資源の持続的な利用」と「水産業の成長産業化」であり、それらを進めるに当たってデジタル化の推進が必要不可欠となっています。
具体的には、図8の①「水産資源の持続的な利用」を進める上で、資源評価の高度化、資源管理の適切な実行が重要となります。また、水産業の成長産業化を進める上で、②漁業の生産性向上や③養殖業の生産性向上、④流通構造の改革といったことが必要になるため、これらを進める上で、スマート水産業がより重要となってきているということです。

図8 水産政策の改革を支えるスマート水産業の取組
資源評価の高度化や適切な管理を行うためには、正確なデータをきちんと取ることが重要となりますが、これらデータを集めるには、漁業者さんからの協力が不可欠となります。その協力していただく漁業者さんの側に、現在インセンティブがないというところが課題となっています。そこで、データを提供する漁業者の側に十分なメリットが得られるよう、収集したデータを還元・提供することが重要であるとして、全国の市場からの情報を集約するため各県のデジタル推進協議会等を設置しながら取り組みを進めているところです。
次に、「②漁業の生産性の向上」を図る観点では、海況状況や漁海況情報を活用していくことが重要となります。そこで、新たな漁業者さんでも効率的な漁業を行ってもらえるように操業の支援サービスを提供していくことや、陸上と海上との情報連携を進めていくこと、それから定置網等で漁獲された生産物の状況が遠隔地からでも分かるようにするといったことが検討・進められております。このような取組が今後ますます重要と考えられます。
3つめとして「③養殖業の生産性向上」を進める観点で申し上げますと、重要な課題として環境負荷やランニングコストの低減、省力化、養殖に適した海域を確保するためのイニシャルコストの削減や場所の確保、また養殖分野の投資の拡充といったことがあげられます。これらの課題に対しては、養殖業の自動給餌システムや、養殖の餌の確保に係るAI等技術の活用が進められていますが、これに加えて、IT分野の方々に積極的に養殖業に投資していただけるようにICTの導入環境を整備する必要があると考えています。
最後に「④流通の構造改革」についてですが、重要な点はマーケットニーズに基づいた適切な商品作りの推進と、水産流通適正化法を順守することの2点であると考えられます。
前者においては、マーケットイン型の商品開発を進めていく上でトレーサビリティーが重要となりますので、バリューチェーンにおける関連データを一元管理することです。また、後者の水産流通適正化法に関しては、法に基づいた手続きが非常に煩雑になってきていますので、その手続きの負担を軽減していくためにICTの活用が非常に重要になってくると考えています。
こうした取組を進めていく中で、スマート水産業を支える人材の育成も重要になってきます。例えば、生産現場のリーダーや現場の取り組みを普及させていく普及啓発を行う人材などで、様々な育成支援を進めています。
次に、漁港漁場の整備の観点からのICT化についてお話しさせていただきます。まず、流通拠点漁港における荷さばき所、いわゆる産地市場の整備においてとなりますが、ICT化を進めるための一部支援を行っています。これにより水産業の流通過程におけるICT化、デジタル化について、少ないながらも推進を図ることに貢献しているものと考えています。
また、漁港施設の維持管理の適正化や、老朽化にかかる問題に対応する上で、デジタル化の検討が進められています。例えば水中の施設の状況を把握するため、デジタル画像を使うことで補修等の工事を効率的に進めていけるようになります。この分野においても現在、デジタル化にかかる研究や実証が進むことで、今後より広く実用化が進められることが期待されます。
また、施設情報の管理の面からも、データを一元管理し誰でも見られるようにする取り組みが見られます。管理や施設の更新状況を入力できるようにすることで効率化や適切化が図られ、水産業を適切に支えることができるようになるのではないかと考えています。
以上のような観点から、水産業におけるデジタル技術の活用が進められていくものと考えています。
3質疑応答①
パネルディスカッションにつきましては、会場、もしくはオンラインの向こうに、画面越しにいらっしゃる皆さんと一緒に進めていきたいと思います。
今、パネラーの方々にそれぞれの立場でのお話を聞かせてもらいましたけれども、守備範囲がそれぞれ異なるといいながら、少しずつかぶっているところもあったのかなと思います。
パネラーの方々から、ぜひこの方にこれを聞いてみたいということがありましたらご遠慮なくお願いします。
- Q. 入札結果の公開と維持費の負担について
- 銚子の間渕さんにご質問したいのですが、一つは入札結果が表示されるというのがあったと思うのですが、全員が札を入れた結果が全て公開されるのかどうかということ、もう一つ、維持費をどのように負担しているのかという2点をお聞かせいただければと思います。(松本)
間渕 入札結果の履歴の閲覧というところについて、我々でも議論があったのですが、自分が入札した札に関しては1週間残ります。その日、自分が落としていないものも含めて、全ての履歴はその日中であれば閲覧ができる形になっています。システム維持の問題について基本的には自腹で、自分たちのお金で賄っていくという形になっています。
コストの話に関しても、クラウドの維持も現行の物理的なサーバーに関しましても、自分たち、我々漁協が負担していくという形になっています。
和田 今のお話、1つ目の点について、僕も追加の質問があります。もちろん、落札した結果で魚の取引がされるので、その情報が残ると思うのですが、実際にどのように札が入ったかという情報は、何かデータの活用の仕方というのは2次利用の方法があるのかなという気もするのですけれども、何かそのような発想はありますか。
間渕 われわれ市場運営者として、中立の立場として、そこに手を加えるわけにはいかないというところもあります。買受人さん方はそのデータをすごく知りたいと思うのです。自分以外の買受人さんが幾らで入れたのか。それはさすがに公表できないので控えているのですけれども、市場として、値段に反映されるところにどこまで手を加えるかというのは、きちんと考えないといけません。
斎藤 電子入札ですと、全然落札できない人が出てくる可能性もあるわけですが、そういうのは、従来の入札やセリのルールからするとあまりにもドライ過ぎるのではないかと思うのですが、その辺はどうなのですか。
間渕 基本的な入札の原則として、この人は落札できていないから、何か救済をしてあげようというのはなかなかできないところで、われわれとしてはこの人は落札できないからもう少し高く入れたほうがいいと教えるわけにもいかないですし、ドライと捉えられればそうなのでしょうけれども、その買受人さんに肩入れするというのは、やはりできません。
斎藤 承知しました。当然だと思います。あまりにもドライな感じがするなと思ったものですから。
- Q. 市場データを活用した分析について
- 今、和田先生がお尋ねになられた点は私もすごく興味がありまして、スーパーのPOS情報などが、需給分析にものすごく使われていますが、これだけ電子入札が入ってくると、落札できなくても、札がたくさん入ったなどというのは、潜在的需要を表しているなど、いろいろな分析ができるような気がするのですけが、こういう産地市場の入札情報を使って、それを集めて何か解析していこうですとか、それで潜在的な水産需要を見いだそうなど、そういう仕事というのはないものでしょうか。(水研機構 大関)
和田 テクニカルにはできると思いますし、私も非常に興味があるところですけれども、なかなか情報として、あるからといって表に出てくるか、使えるかといったところの整備があると思います。斎藤さん、そういう意味でデータのセキュリティーを保ちながら何か活用していくという可能性はあるのでしょうか。
斎藤 非常に高いと思います。大量のデータを処理するためにはAIを使うというのが今の常識となりつつありますから、セキュリティを保ちつつリアルタイムで自動的にAIがデータを解析して結果を逐次更新して提供するというのはありだなと思います。大量のデータの中に非常に重要なデータが混じっているということはあり得るので、AIなどでこのデータを見落とさずピックアップするのはすごく大事だと思います。
和田 僕が間渕さんにお聞きした心は、その情報を集めたらAIが入札できるのではないかと思ったのです。それがこの2~3年の話ですと笑い話かもしれませんけれども、10年先ですと笑い話ではないのかもしれないなと少し思ったのです。
間渕 それは将来的には十分あり得る話だと思います。あとは市場として他の買受人さんたちとどうやって話していくかというのはもちろんありますが、おそらく技術的には市場に入った、例えば全ての入札データなどをAIが全て記録して使っていけば、かなり正確な数値が出てくるかなと思います。
- Q. 電子入札による魚価向上効果について
- おととしでしょうか、大船渡の市場に伺った時に、大船渡はいち早く電子入札を導入されているのですけれども、導入後に競りの価格、魚価が上がったというのです。
それはどういうことかというと、競り人と買受人とのあうんのタイミングで競りをしているのと、ボタンで顔の見えない関係において魚を買うのと、本当に欲しい魚があった時にはどうしても高く入れてしまうらしいのです。
要するに今まで競り人との駆け引きでやっていた、あるいは横の買受人同士で、彼は今日あの魚を欲しがっているという、そういう情報が伝わらないので、欲しい物は高く入れるという話を伺いました。
これが、デジタル化の導入によっていい効果になるのかはありますが、大船渡は魚も集まるようになりましたし、買受人さんも増えたということで、プラス効果になっているのではないかと思うのです。
客観的に本当にそうかどうかというのは、実は林部長と、今年、調査しようという話をしています。ですから、その結果を皆さんにお伝えしたいと思いますし、ドライになることで魚価が上がるという、いい効果になっている可能性はあります。そこは調査を進めたいと思います。(漁村総研 浅川)
和田 間渕さんとしては、感覚的に今のお話をどのようにお聞きになりましたか。
間渕 われわれ市場としては、船の水揚げの手数料で食べているので、魚価が上がることに対して、もちろん歓迎なのですが、元々競りでやっていた所と入札でやっていた所の差というのはもちろんあると思います。今のところ、すごく魚価に反映されているかというと、そうではないかなと思います。まだ始めて少しというのもあります。
- Q. 消費側へのデジタル技術活用について
- 今時点では漁師さんや漁港関係者の方々に対するメリットがメインだと思います。消費者など、消費する側に対してのデジタル技術の今後の活用の展望というか、利用方法などは何かしらあるのかというところをお伺いしたいと思います。(五洋建設 柚上)
小野寺 今、われわれ協議会は産地側の方々で構成をしていて、漁業者のインフラの関係などの議論が主となっているところは大きくあります。
一方で、この取り組みの中で水産バリューチェーンを考えながら、水産データのオープンな利用の仕方というものを考えるということに関して協議会において話し合いをしますと、消費者においしい魚を届けていくということが産地側の使命だと考えた時に、消費地においしいカツオを届けてられているかどうかということに対しては、まだまだ改善の余地があるなという議論が必ず湧きます。
なので、デジタル技術の活用ということを、特に流通面を考える際には、産地側の人間にとってみれば消費者がどういう感想を持っているか、あるいは産地の鮮度を限りなく低減せずに、いかに消費地に届けていけるかということを常に意識しながら、バリューチェーンの研究などは議論が進んでいます。
そういう意味では、水産業のデジタル化ということはインフラ整備でもありますが、水産物の価値向上のよりどころにもなっていて、その先には常に消費者がいるということが、この協議会の皆さんのあうんの呼吸で会話されています。
- Q. 蓄積したデジタルデータの活用について
- 皆さんのお話を聞いていると、それぞれの所でそれぞれの目的に合った形でデータを集めるところで苦労されて、それぞれ中規模でたまってきているような感じがします。そのたまったもの自体は他の人にとって非常に魅力あるデータになる可能性があると思うのですが、その先の活用について、何かお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。(三洋テクノマリン 中田)
斎藤 非常に大切なことだと思います。スマート水産業の次のステージまで考えたほうがいいと思います。DXでデータをたくさん集めて、それを使って新しい何かというと、色々な可能性があると思います。議論の余地があるとは思いますが、私は匿名性の高いデータであればすべてAIにデータ解析をさせて、何か新しいものをつくり出すというのは面白いと思います。これはJAFICの意見ではなくて私の個人的な意見ですが、AIの技術開発は急速に進んでいます。とりあえずAIで全データを解析してみる、そういう使い方はありかなと思っています。
4デジタル水産業の将来に向けて
和田 2周目ではこの2~3年くらいの近い将来で、どのように取り組みを発展させていくのか、もしくは発展させるためにどのような課題があって、どういうことを会場の皆さんと一緒に解決していきたいのか。3周目では、野望でも夢でもいいので、10年後、その先でも構わないので、どのような水産業を夢見ているのかといったことについて、少し大きく風呂敷を広げて語っていただきたいと思っていたところです。それぞれをまとめて5分ほどで各パネラーの皆さまからお話を聞かせてもらえればと思います。
斎藤 現状を考えると、水産業の成長の持続性に対して障害となるものはいろいろあると思います。
まず温暖化等の影響で海が変わっていること。これを素早く察知・理解すること。それから不漁問題をどうするか等々。試験研究機関の調査体制というのは徐々に弱体化しており、これを何とかしなければならないというのも重要だと思います。
対処としては、大枠での資源管理の高度化は重要ですが、海や魚の小さな変化、現場で起きている変化を迅速に確実に捉えるということが重要になってきて、そのためにデジタル化やデータ連携がどんどん進んでいるのではないかと思います。
ただ、データ連携やデジタル化はいいのですが、それには、当然お金がかかります。調査体制の補強も同様です。スマート化はいろいろとお金がかかったり、実は手間がかかったりすることが多いというのは、つくづく感じるところなので、その辺を何とかしなければなりません。
やはり漁師さんたちがスマート化に取り組んだ時に、松本先生がやられているように、わかりやすくお金に換算するなど、とにかく自分の利益になるということを明らかにすることは大切です。それから社会の利益になることもポイントです。社会貢献というのを、意外に漁師さんたちは気にするので「これが資源管理に役立つのだったらデータを提供するよ」というのは、ヒヤリングなどでよく言われています。この辺はクリアにしたらいいのではないかと思います。
それから、大量のデータをどう処理するかというのは非常に大きな問題だと思います。これらを全部クリアする一つのツールとしてICT、デジタルというのがあるわけですが、そこにはまた、AIの活用など、進むべきステージがあるように思います。
恐らくデジタル化は放っておいても進むのではないかと思いますが、成果を積極的にアピールすることによって海業につながったり、サイエンスともっと連携することで資源保護や管理のコンセンサスを得やすくなることを期待します。稚魚、幼魚を保護するための施策にデータを積極的に使うことなどはとても重要で、漁師さんも理解しやすいと思います。
それから、通信インフラは非常に重要だと思います。特にスターリンクが出てきて大きく変わってきました。沖合でもブロードバンド通信が安くできるようになると漁業は劇的に変わる可能性があります。洋上ブロードバンドによって陸でできたことが海で普通にできるようになります。今までなら通信環境を心配してできなかったことができるようになるのは非常に大きな変革です。
それから、異業種連携を推進するというのは重要だと思いますし、テクニカルな話をすれば、今現在ネット上に存在する様々なデータシステムや、今後出てくるであろう新しいシステム、それらをつなぐためのAPIをみんなで自由に共有できるようにすればすごく簡単にデータ連携ができるので、そういう世界をつくるというのがこれから目指すところではないかと思います。
松本 少しポイントをまとめると、まず一つはあらゆる情報をデジタル化しておくというのが大前提だと思います。使うか使わないかは別としても、いろいろと取り組んでいくと「これをやってみたらどう?」など、出てくるのでが、データがないとスタートできないということです。ですので、とにかくデジタル化というのは、川上の情報を含めて、デジタルで持っておけば非常に強いと思っています。
あとは分析ですが、これもデータがあればいろいろなことができます。こちらから提案する場合と、逆に利用者から提案が来る時がありますので、その時にすぐ対応できるということです。
資源管理については、国の流れにある程度は従っていくと思うのでが、データをうまく活用するというのが重要になってくるかと思います。
運用ですが、デジタル化することによって業務の効率化も図れるのですが、データを運用すると、お金を運用するようにデジタルの情報が漁協単位でいろいろな所に回っていくと、回れば回るほど、それぞれの情報の価値が上がってきますので、その枠組みの中で情報を運用してやることによって、最終的には漁協や漁村の仕組みがうまく回ってそこに価値が出ていくと、一体化してくるということが一つあるかなと思います。
最後に標準化として、いろいろなシステムがある中で、例えば航海計器のように、メーカーが違ってもこういった形で出力しますよという形式を作っておけば、可能性が広がるのではないかと思います。個人的にはベンダーさんがたくさんあってもいいと思うのですが、データ形式を統一化していくことが横展開につながるのではないかと思います。
一方では、どうしても成果を出したくなるので、お金があれば、どんどんいろいろなことをやっていきたくなるのですが、価値を高めるよりも、どう維持するかというのが大事だと思いますので、デジタル化というのは、そこのバランスというか、運用後のコストを考えた上で取り組んでいかないといけません。あまりデジタル化にお金がかかるのであれば、かえってやり過ぎることで横展開をしにくくする可能性もありますので、そこは少し注意が必要だと思っています。
私たちはいろいろなところで情報が入ってくるようになっています。
情報を公開することで、私たちはアクセス数を見ていて、例えば市場であれば月に300ぐらいのアクセスがあります。生産者であれば、多い時は500ぐらいのアクセスがありますので、そういった情報を、データ統合しています。社会実装していますので、会社をつくって、ここで処理して、形を変えて、必要な形で必要なタイミングで利用者に情報を配信するようになっています。
その結果をいろいろな人たちが活用するのですが、先ほど紹介した市場のニーズや、今、取り組んでいるのが、競り結果をいち早く仲買人に戻すようにしたり、相場がすぐに出て、出港したばかりの船がすぐに魚種ごとの相場が分かるといった情報が仲買人などに戻るようにしています。
このようにして、データを運用することで漁協全体で利益が生まれてきます。あと、情報があればずばり言うと情報はお金になると思っています。あまりお金お金と言ったら印象がよくないと思うのですが、デジタルであればその情報を丸めることもできますし、魚種ごとに絞ることができますし、緯度経度が農林漁区に絞ることもできますし、いろいろな形で使えると思うのです。
情報というのは活用するだけではなくて、お金になる可能性もあるので、それを生産者のほうにお金が流れていくなどの可能性もあります。
あと、メールなど、いろいろな配信をしているのですが、それを全部有料にしています。皆さんからお金を頂いていて、そのお金が、私たちではなくて、生産者に行く流れになっていたのですが、生産者のほうがそれを使わずに基金としてためておきたいということで、年間、一定数のお金を基金という形で蓄積していて、ある程度お金がたまったらシステムの改修などに使いたいということになっていますので、データをうまく運用して、そしてお金に換えていくというのは、これから必要なのではないかと思います。あとは、大きくし過ぎないというところかなと思います。
間渕 漁協の使命というか、仕事として一番重要なのが、漁業者さんが取った魚の鮮度というのは上がることはなく、下がっていくだけなので、心がけるべきことは、漁業者さんから水揚げされた荷受けした物を買受人さんに荷渡しするまで、いかに鮮度の低下を防ぐかというところしかできないところがあります。
どれだけ早くしても、衛生管理をしても鮮度が上がることはないのですが、電子入札だけでも、作業時間がかなり短くなっています。
実際、キンメダイの入札だけで言えば、従来は全部終わるまで3時間、4時間かかっていたのが、2時間になったり、2時間半、1時間半と半分ぐらいの時間でできるようになっています。省人化も含めて、電子化を導入することによって鮮度が落ちない、要は滞留時間を短くして、一般消費者の口に届けられるというところを、今後も考えていかなければいけないと思っています。
市場で得られるデータというのは、入札のデータだけではなくて、水揚げされてからその魚がどのような動線を通っていったか、入ってきた時から出ていくまでの間に誰がどのくらい触ったか、温度がどれくらい下がったかなど、鮮度に関わるデータというのは、今はまだ取っていないのですが、そういうものまで含めれば、よりいい状態の魚を皆さんに届けられるということにつながってくると思いますので、今後はそういうところまで、手が回ればですけれども、取り組んでいければと思っています。

- 林 浩志
- 漁村総研 第1調査研究部 部長
林 電子化することによる効果ですが、今、間渕さんが話されたように、人が少なくて済む、時間が短縮されるということは、どこでも言われることです。特に、最後の会計処理のところは、現場で上がってきた紙データを事務所に持ってきて、それを打ち込む人、それを販売した人と確認しながら、また出来上がったものを確認していくということをやられており、かなり時間を割いているということを言われます。それが電子化されると、時間が短くなる、人が少なくて済むということになります。
デジタル化を進めていくには効果というのがどうしても付きまとってくるので、実施する方々が、導入したらどうなるのだということをよく言われます。コロナ前に銚子漁港さんに行って、電子化することによってどれだけ効果を生んだのかというのを調査した結果、金額については、時間の短縮、人の削減かける単価という形で出しています。
第1市場と第3市場で入札がまだ電子化されていませんが、入荷した魚はもうタブレット入力をしていたという時の効果を見てみると、年間で1,300万円ぐらいです。この調査は電子化される前の調査ができなかったので、導入後の状況を測って、それ以前のことについてはヒアリングで想定しています。
その後、将来として面白いのが、第3市場のほうで販売業務の時間短縮による削減額が463万円でこれは市場職員の方の削減効果です。一方、購入業務の時間短縮による削減額が2,330万円ぐらい削減できています。これは買受人さんの時間短縮の話です。
先ほど間渕さんが言っていた、入札というか、全部の作業が終わるのに3時間ぐらいかかります。その中で、買受人さんたちのほうが効果の金額が高いということです。これは市場の職員と買受人さんの人数が全然違うので、かなり時間短縮の効果を生んでいるということで、全体的に見ると、年間で1億7,800万ぐらい効果を生んでいることになります。
これは一例でしかないのですけれども、他にも大船渡で調べたり、宮古で調べたりしているのですが、これだけの効果を生んでいます。このような効果を示していくことが、電子化を広げていく一つのパーツになるのかなと思っています。
粕谷 デジタル水産業の将来に向けて、今後進めていくべきこととして、まずは、流通拠点漁港での流通機能の強化の観点でのデジタル化であると考えています。タブレットやモニターを導入することに合わせ、漁獲や入札情報の電子化を図ることでデータの一元管理ができますし、これによって市場全体でのトレーサビリティーを進めていくことも可能となるためです。
また、漁場、藻場、干潟の造成の観点でもデジタル化の推進が求められると考えています。海域は非常に広大ですので、海域における藻場や干潟の状況の把握や漁場整備事業を行う際の場所の精度を高めるために、デジタル技術の活用が非常に有効なツールとなってくるためです。
3つめとして、漁港施設を維持管理する観点です。上空から入手した電子画像を有効活用することによって状況を正確に把握、記録することができますので施設管理を高度化していくことも今後ますます進められるのではないかと考えています。
4つめで、漁場整備の効果把握の観点でも、大きな効果が期待されます。整備した漁場施設に海洋データの観測機能を付加したり、漁船の航行の航跡図を使ってどのような漁場が利用されているか把握すること、漁場の効率的な利用方法の検討なども検討されており、今後の動向が期待されます。
5つめとして、水産庁が現在進めている「海業の推進」に関しても、様々な活用が期待されています。事例として、スマホアプリで海釣りができる場所の予約ができるシステムの開発などがあり、幅広い視点でデジタル技術の活用が今後見込まれるのではないかと考えています。
一方、技術を活用していく上での課題への対応についてですが、新しい技術を使った場合には、精度等の確認が必要となります。また、初期コストの観点で、小規模な場合にはかえってコストがかかってしまうなどの問題も生じています。今後は、技術の標準化を進め、普及させることにより、導入コストなどのハードルを下げていくことが重要になってくると考えています。
最後に、今後、デジタル技術を活用した水産業が目指す将来像についてお話しします。水産資源の持続的利用と水産業の成長産業化を両立させるために、各デジタル技術を有機的につなげていくことが重要だと考えています。例えば川下で入手した漁獲情報データを資源評価に活用し、IQ(漁獲割当て)やMSY(最大持続生産量)の配分を自動で行うことで漁業活動を効率的に行うことができるようにするといった観点です。
また、新規就業者の確保の観点でも有機的につながったデジタルデータを活用することで誰でも適切な漁場に効率的に出て漁業ができるようにすることが可能となります。
養殖業においても共通情報を活用することで、出荷時期の調整や餌料の最適化などのコスト削減が可能となりますし、遠洋、沖合漁業に関しても最適な漁場へのアプローチを可能とすることでエネルギーの削減等ができると考えています。
生産した水産物がどのような過程を通るかを示すトレーサビリティについてもデジタル情報の連携がカギとなります。データを容易に把握・管理できれば、生産者も消費者もよりよい商品を適正価格で提供できることに繋がると考えています。ICT化、デジタル化を広域で結び合わせることによって水産物の流通全体の効率化、高度化を進めていく。これに向けて、漁港漁場等の施設整備による支援が今後、ますます期待されるものと考えています。
小野寺 持続可能な産業、成長産業化ということに関しては、気仙沼市は水産業がなければこの町の経済は立ち行かなくなる町であることは間違いないので、水産業のデジタル化というのはマストだと思っています。つまり、常に水産業を高め続けるためには、このデジタル化というものにひたすら向き合い続けていかなければならない時代だと考えていますが、昨年から取り組み始めて、まだ1年半しかたっていない中で感じることは、デジタル化というのはとても時間がかかる作業だということです。
それは、デジタル化、DX化というのは、たぶん業界の構造改善というか、業務改革なのだと思うのですが、つまるところ、考え方としては、今、どういう状況があって、それはどうやったら解決できるのかという理想像を、まず皆と話し合いをしなければなりません。それで、これはデジタルという定量的な仕組みに当てはめられるようなものなのかどうかということを考えなければなりません。その結果、それにふさわしいデジタル技術が世の中にあるのかどうかというのを模索しなければなりません。
その上で事業化ができるかどうかということを延々と考えなければならないのかなと思います。
最終的に出来上がった時に、拡張であったり、普及であったり、メンテナンスであったりと同時に、この数年後に、また技術がアップデートされて、これをずっとやり続けなくてはいけないことなのかなと思っています。これが、おそらく水産業のデジタル化の課題なのかなと考えています。
これに向き合い続けていかなければ気仙沼の未来はないのかなという危機感もあります。一番顕在化しているのは担い手の問題で、遠洋漁船の乗組員がだいぶ高齢化し、沿岸漁業者の経営体も家族経営体が中心なものですから、漁場がいつ空いてもおかしくないですし、いつ遠洋漁船が動かなくなってもおかしくないような時代が差し迫ってきています。
その先の解決策としては、極端な話、無人漁船のようなものが未来において登場したり、あるいはより効率的な沿岸漁業が登場していくような必要性があるのだろうと思っていますので、未来の実現に向けても、このずっと続くような課題について向き合っていかなければならないのかなと感じています。
実際に今、われわれは制度が課題で進められていないこと、あるいは人が課題で進められていないこと、あるいはそもそもまだデジタル技術が追い付いていないという、大きく3つの壁に当たっています。
例えば、制度的なところで言えば、洋上のところがまさにそうなのですけれども、オンライン診療という類いの医療面を洋上において実現させていくということに関しては、間違いなくデジタルではもう実現できるところまでは来ています。一方で、社会の枠組み、法体系や制度、実務といったところがそれを許さないというのが課題として見えてきました。
そういう意味では、この水産業デジタル化を進めていくためには、その技術に見合った社会の枠組みそれ自体を改善していくような動きを地域としてつくっていかなければならないということが一つあるかなと思っています。
もう一つは、出てきた技術が使う側の知識レベル、認知レベル、あるいは経済事情が見合っていないために、なかなか普及しないというのがあります。
特にスマート水産業は、沿岸漁業者にはこれからの持続産業的な水産業としてはスマート技術の普及というものが必要だと感じているのでが、正直、月額の利用料というのは決して安価なものではないという中で、それを活用すれば、漁業者にとって、より操業効率が上がってプラスになる計算もできるかもしれないのですが、利用者が使いこなせない、かつ用途が見いだせないというところで、なかなか普及というところに至らないというのが今の課題です。
地域として沿岸漁業が成長していくためには、まさにJAFICさんの『エビスくん』のような面的なデータの収集が欠かせないのだろうと思います。面的に広がっていくためには、機器それ自体の導入も広がっていかなくてはいけないというところもあって、人が課題というところに立ち向かっていかなければならないのかなと考えています。
あとは、技術の進歩は確かにありますが、まだまだ社会課題に追い付いていません。常にアップデートが必要だと思っています。
漁港の管理のデジタル化では、カメラに人なり車が写り込んだら、それを取り込んで学習できるようなカメラを導入して、それを漁港に置いて、船の捕捉を試みようという実験をしている最中ですが、あいにく、船というものを学習するということが、世界中のカメラの技術レベルでもなかなかまだ充実していないようで、それはたぶん、ニーズがないからだと思うのですが、船の形が学習できるようにデジタルの技術が成長していけば、今、実験をしている漁港のところにも役立っていくのかなという思いはありますが、まだ時代はそこまでは至っていないというところも、今、課題として考えています。
そういう意味では、成長産業化、持続可能な産業というのは、われわれにとってみれば常にこの先にあるなと思っていまして、こういう枠組みの中で課題を解決していきたいと思っています。
気仙沼市が昨年度からデジタル水産業戦略拠点に選んでいただいたおかげで、いろいろな首都圏の企業さんなどから、気仙沼市の取り組みが面白いので話を聞かせてくれという打診をいただく機会がだいぶ増えました。その都度、丁寧に説明をしているつもりなのですが、やはりわれわれが説明するだけでは、なかなか本当の意味での現場のデジタル化の必要性はニュアンスしか伝えられません。
本当の意味では、今、起きているこの場所に一緒に来てもらって、それで一緒に失敗を繰り返すような作業ができるような体制ができると、特に企業レベルで、こういった制度、人、科学技術というところの課題というのを、おのずとビジネスチャンスとして受け止めていただいて、地域全体として上向いていくのかなというところが、今、気仙沼市として考えているところです。以上です。
5質疑応答②
和田 あと10分ほどになってしまいますけれども、また会場の皆さんとネット越しの皆さんと一緒に、この後の時間を過ごしていきたいと思いますので、何かご質問等がありましたら挙手をお願いします。
- Q. 民間企業との連携・活用について
- スマート水産業のところでは、具体的に北海道の斜里のほうで観測ブイをお手伝いさせていただいたりしています。
水産の行政の方が水産業に対して非常に熱い思いを語られ、私は感銘を受けたので、小野寺さんにご質問です。
令和6年度の新しい取り組みとしてたくさんのメニューがありましたけれども、あれだけのたくさんのメニューというのは、たぶん気仙沼市の水産課さんだけで考えたものではなくて、おそらくシーズとニーズと、そういうところがマッチングされて、これは少し取り組んでみようということになったのだと思うのです。
おそらく水産課さんのほうとしても、操業を実際にされている漁業者さんとの対話や、あるいは地域の研究集会など、そういうものを常々開催されているのではないかなと思います。そういう所に企業を呼んでいただいて、いろいろ情報交換をさせてもらえるような場面をつくれば、もっと細かいシーズ、ニーズのマッチングができるかなと思うのですけれども、今、実際にそういう集会や対話の場というのは設けられているのでしょうか。(ゼニライトブイ 吉田)
小野寺 われわれも結局、自治体職員ですので現場のことがよく分かりませんので、現場にまず飛び込むような枠組みで作業部会のような形を開いて、取り組みの単位単位で、関係者に集まってもらって、具体的に、今、何が起きているのか、課題は何なのか、理想は何なのか、何でそれをやれてこなかったのか、どう変えたいのか、それはデジタル化として、解はデジタル化なのか、そういうことを延々と繰り返しています。
ご提案いただきましたとおり、われわれからすれば、漁業者のニーズを常に聞くような、汗をかきつつ、同時にそれに向けた回答となるようなシーズもニーズも常に拾っていかなくてはいけません。その両方を常に見ながら、これを地域課題として取り上げるかどうかということを並行してやっています。
ご推察のとおり、われわれ水産課だけではマンパワーも含めてなかなか拾いきれないところもありますので、より多くの企業さまや漁業者の方々に自分たちのニーズというものをもっと聞いてくれ、自分たちのシーズをもっと聞いてくれということのお力添えがあると、水産DXの大きな推進役になるかなと考えています。
- Q. 今後どのようなことを考える必要があるか
- 気仙沼市さんの制度と人と技術とありますけれども、あとコスト的なところを、どこの主体もそれだけのコストを払えるかというと、そうでもないと思うので、現実的なところを進めるためには、他の所も、事業主体や漁業の方も、こういうのに取り組むためには今後、どういうところを考えていけばいいのかというところを、特に和田先生はこれまでもずっと取り組んでいる時に一番重要なところはどこなのかというのを教えてもらえると、これから取り組もうとしているところにも役立つのかなと思ったのですけれども、いかがでしょうか。(北日本港湾コンサルタント 三上)
和田 僕の守備範囲が、どちらかというと小規模な漁協さんや部会との取り組みということなので、一概に共通のやり方かどうかというのは分からないのですが、私の場合には、だいたい2~3年一緒に取り組むという計画があった場合には、基本的には2年間は費用負担するけれども、3年目はお金を出してください。出せないのであれば、われわれも取り組みをしませんというスタンスで進めていきますし、そもそも、幾らぐらいまでだったら自分たちでお金を負担してでもやっていきますかという話は事前に聞いておきます。
僕の感覚で言うと、経験的には10個やって2個うまくいっていたら、それはかなりいいほうかなと思っています。
やってみないと分からないことはたくさんありますから、やってみて、例えばですけれども、水産庁さんから事業としてやらせてもらっている、その中で、ある地域で、では5つの取り組みをやっていきましょうとなった中で、5つやってみたけれども、最終的にこの2個だけは自分たちでお金を払ってやっていきたいとなったりするのです。ですから、100やって、100残すということをマストにしなければ、比較的導入はしやすいのかなと、個人的には思っています。
だいぶ規模の違うことをやられている方もいらっしゃいますので、何か補足でありましたら。
間渕 コストのことだけを考えるのであれば、われわれもいろいろ考えたのですけれども、電子入札だけで考えれば、例えば買受人さんからお金を取るなど、いろいろあったのですけれども、そうなってくると「それならやらないよ」と、どうしてもなってしまうのです。そこを押さえるために、われわれは自分たちでサーバーの補修、クラウドの補修を含め、自分たちで持つということになったのですが、システムの開発のところだけでいえば、水産庁さんの補助金を使ったり県の補助金を使ったりというところで賄っていくしかないのかなと思います。
イニシャルはそれで何とかなるのですが、ランニングコストの部分でいえば、かなり難しい問題だとは思います。なので、やる前に、それを維持できるかどうかというのも含めて、きちんと検討していかないといけないということだと思います。
和田 おおむねいい時間を迎えてしまったのですが、今日、このお話を聞きながら、魚を取ってくるような立場の方々、魚を取ってくるために情報を提供するような立場の方々、取ってきた魚を受けて渡してくれる立場の方々、自治体としてそういう大きな産地市場を抱えている立場、また国の立場としてどういった支援をしていきますというお話も聞かせていただくことができました。
- Q. デジタル技術を「つなぐ」とは
- 最後に、オンラインで質問が1つ来ているので、ご紹介したいのですが、少し文章が長いので要約しますと、僕の最後の講演のところで「つなぐ」という言葉を使ったのですが、人とデジタルをつなぐには、人が歩み寄っていくのでしょうか? デジタルが歩み寄ってくるのでしょうか? という質問をいただいています。(和田)
和田 これは僕にもらったと思いますので、僕が回答しようと思います。まず、この質問の意図としては、人とデジタルが離れている、距離があるということが前提だと理解をしました。アナログの時代に生まれた人たちにとっては、人とデジタルに距離があるというのはそのとおりだと思っています。
どちらがどちらに歩み寄るのだという話なのですけれども、僕の経験的には、例えばデジタルがUIを工夫するという形で歩み寄れるのは2割から3割でしょうか。どちらかというと人のほうが8割から7割、近寄っていかなければいけないと思っています。
一方で、デジタルの時代に生まれてきた子たちというのは、もう、そもそも距離がないと僕は思っているので、それは歩み寄るもどっちもないと思っています。
6まとめ
和田 今日、僕は最後に「つなぐ」という言葉で、あのスライドを僕なりに時間をかけて作ったつもりなのですけれども、最後に「つなぐ」で締めると思い付いたのはおとといだったのです。一生懸命に言葉をつないで、つくってつなぐということを幾つか紹介していったのですが、僕としては、僕の興味の範囲ですけれども、消費者にどういった情報を伝えていくのかという意味で、消費者につなぐといったことを、この後、しばらく自分のライフワークとしてやっていきたいなと思ったところです。
最後にむちゃ振りして終わりたいと思うのですが、それぞれの立場の方から「つなぐ」をキーワードに、皆さんは何をどうつないでいくのかといったことを一言ずつ、この先の皆さまのご計画、もしくはご希望などを踏まえまして、一言ずつお話をいただいて、このディスカッションを終了したいと思います。どこからいきましょうか。
斎藤 つなぐというと、私のほうから話したのは異業種連携です。ベンチャーの人たちがもっと積極的にスマート水産業に参加していいのではないかと思います。
それから、つなぐという意味では、スターリンクを筆頭とする、洋上と陸上がシームレスにつながる世界、これはおそらく早々に実現されるのではないかと思います。今までのように、洋上通信だからデータを小さくしなければならないという努力を全くしなくてよくなるのです。
それから、大容量のデータと人をつなぐという意味では、AIを使って、人間ではできないところをAIが解析することによって新しい何かを見つけてくれるというところかなと思います。
松本 私は、実はデジタル化したとして、では漁業をやってみようかなという、担い手不足のほうには、今まであまり貢献できていなかったなというのに、最近になって気付きまして、こういった面白いことをやっているのだったら漁業をやってみようかなと、そういったことにつながるような視点で、今後は取り組んでいかないといけないと思っています。
実際には、漁船、漁業に関しては技能実習生や特定技能の実習生などがいます。いろいろな技術があっても、それがつながっていくということが大事ですので、やってみようかなという魅力のある水産業を目指して、これからも取り組んでいきたいと思っています。
間渕 われわれ市場としましては、漁業者さんが持ってきたお魚を、消費者の食卓まで運ぶ、つなぐ、それも漁業者さんがいい魚をいい状態で皆さんに食べてもらいたいという思いも、その状態のままつなぐということがわれわれの使命だと思っていますので、そこら辺が今後の課題となっていくと思っています。
小野寺 気仙沼市という自治体でありますので、海とつながり続けている水産の気仙沼が、これからも海とつながり続けられるように、つながりが深くあり続けられるように努めるということと、それを一緒に考えてくださる気仙沼以外の地域の方々、特に首都圏や世界中の知見あるデジタルのような、そういう方々と、そのつなぎ役としても、自治体職員としては励んでいかなくてはいけないと思っています。
その先に松本先生や斎藤部長が言ったとおりの持続可能な産業というのがあるのかなと感じました。
粕谷 資源管理や沿岸漁業の養殖や沖合漁業や流通構造といった観点で、それぞれデジタル化、ICT化を進めていく中で、それらのデータを有機的につなげていくということです。
データとしてアプリケーションが違ったり、データの互換性がないなどといった形で、それぞれの集めたデータがなかなか利用しづらい状況があることに対して、今後、共通化や互換性がある形に統一化を図るなどによって、入手したデータを一体的に活用し、全体的な利用しやすさ、効率性の向上等が実現できるのではないかと考えています。
林 「つなぐ」という言葉の中に、先ほどもQ&Aでありましたように、人をつなぐという言葉を聞いた時に考えたのですが、やはり人をつなぐというのは、私は次世代につなぐといったところもすごくあるのだなと捉えました。
というのは、私はこの世界に入った時、市場の作業環境というのは、あまりここで働きたくないなという印象を持っていました。それが電子化されたり、今後、選別機がAI化されていけば職場環境が大きく変わっていくといったところで、私としては、今後、そういうのを導入していって、電子化、またAI導入、いろいろなことで、人を次世代につなぐという視点で取り組んでいけたらいいなと思いました。
和田 パネルの皆さまからいろいろなお立場で「つなぐ」という言葉を聞くことができました。
特に僕が印象に残ったのは、気持ちをつなぐというというのは非常に大切だなと。見えないものですけれども、つなぐのはとても大切だと思いました。
それでは、パネラーの皆さまと会場の皆さま、そしてオンライン越しの皆さまのご協力の下、定刻でパネルを終了することができそうです。それでは皆さまにお礼を伝えまして、私はマイクを戻したいと思います。ありがとうございました。
