第2調査研究部の調査研究情報

調査研究事例の紹介

事例1:災害廃棄物等の漁場施設への再生利用

  • 平成23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波のため、東日本大震災では膨大な量の災害廃棄物が発生し、その処理が大きな課題となっておりました。一方で、津波により被災した被災地の漁業の回復のために、漁場の早期再生も切望されておりました。このような現状から、災害廃棄物を漁場の造成に効率的に利用することができれば、災害廃棄物の処理と漁場の回復の促進が期待できます。
  • そこで、漁村総研では、漁場施設への災害廃棄物等の再生利用について検討し、災害により発生したコンクリートがらを用いて、岩手県上閉伊郡大槌町、岩手県宮古市田老町においてコンブ・ワカメ増殖礁、青森県八戸市鮫町においてコンブ養殖用アンカーブロックを製作・沈設ました。
  • また、本業務での成果をとりまとめ、「漁場施設への災害廃棄物等再生利用の手引き」を作成致しました。
  • さらに、増殖礁設置後のモニタリングを漁村総研の自主研究として継続的に行っております。(本調査は水産庁発注による「平成23年度 水産基盤整備調査委託事業 災害廃棄物有効利用調査業務委託」の一部をとりまとめたものです。)
製作した増殖礁(ブロック礁)

製作した増殖礁(ブロック礁)

海藻が繁茂したブロック

海藻が繁茂したブロック

事例2:水産環境整備事業の推進に向けて

  • 平成22年度より、海洋・沿岸域における生態系全体の生産力の底上げを目指し、水産生物の動態、生活史に対応した良好な生息環境空間を創出する整備として「水産環境整備」という新たな考えが提唱されました。水産環境整備においては、「環境基盤の重視」、「点から空間へ」、「資源・環境変動への対応」の3つの基本方針により構成されています。
  • 水産環境整備の考え方に沿って水産生物の生活史に対応した広域的な水産環境整備を展開するため、水産環境整備マスタープランを作成し、我が国の水産資源の増大及び豊かな生態系の維持・回復を図ることとしています。本マスタープランの策定に際しては、様々な水産生物の生活史に関する知見が求められるところであり、現在は未解明である部分を解明し、さらなる知見を事業に生かすため、調査・研究と連携し、仮説と検証を繰り返しつつ事業を推進するプロセスが重要になります。
  • 漁村総研では、水産環境整備の推進のため、水産環境整備マスタープランの策定をサポートしています。これまで、兵庫県、岡山県及び香川県の3県が共同で策定し、第1号として承認された「播磨灘地区水産環境整備マスタープラン」や「本州日本海北部地区水産環境整備マスタープラン」(青森県、秋田県及び山形県)、「伊予灘地区水産環境整備マスタープラン」(愛媛県、大分県、山口県)等の策定に携わりました。
播磨灘地区水産環境整備マスタープラン

播磨灘地区水産環境整備マスタープラン(画像をクリックすると拡大表示します)

本州日本海北部地区水産環境整備マスタープラン

本州日本海北部地区水産環境整備マスタープラン(画像をクリックすると拡大表示します)

事例3:フロンティア漁場整備事業の推進に向けた調査研究

  • 我が国が有する排他的経済水域は、国土面積の12倍に相当し世界で第6位に入る広大なものです。そこで当該海域の有効活用を図り、資源回復の取り組みを積極的に推進することを目的に、沖合域において国が主体となって取り組む漁場整備を実施するために、平成19年度に漁港漁場整備法を改正し、フロンティア漁場整備事業が創設されました。
  • 本事業では、排他的経済水域において施設整備と資源管理措置と合わせて実施することにより、当該海域の水産資源の生産力を向上させ、水産物の安定供給の確保を図ることを目的としています。
  • 現在実施されている取り組み事例としては、①日本海西部におけるアカガレイ・ズワイガニを対象とした漁場整備事業(H19~26)と、②五島西方沖におけるマアジ・マサバ等を対象とした漁場整備事業(H22~26)が挙げられます。
  • 日本海西部におけるアカガレイ・ズワイガニを対象とした漁場整備事業においては、図-1に示す場所に図-2に示す保護育成礁を設置しています。
調査海域

図-1 調査海域(図中のが設置計画位置)

保護育成礁

図-2 保護育成礁

  • そこで、漁村総研では、保護育成礁の構造等の選定や餌料環境の把握のため、造成計画箇所および造成完了箇所において漁獲調査と観察調査を行い、対象魚種の分布状況や生物環境に係る情報の取得・分析を行っています。
  • 本調査で得られた成果を今後の施設整備に反映されるように、現在、保護育成礁の効果の定量化を図るべく解析を行っています。(本調査は水産庁発注による「日本海西部地区漁場整備環境生物等調査業務」の一部をとりまとめたものです。)
ズワイガニ等を漁獲する籠網

ズワイガニ等を漁獲する籠網

選別作業

選別作業

ROV(水中ロボットカメラ)

ROV(水中ロボットカメラ)

図-3 モニタリング調査


主な研究業務

第二調査研究部では、 社団法人全国沿岸漁業振興開発協会より引き継いだ漁場整備関係の計画、設計、事業評価に関する調査研究と技術開発を担当し、自主研究、あるいは水産庁や地方公共団体などからの委託事業により実施しています。

フロンティア漁場整備の計画・整備技術の開発

  • 我が国の排他的経済水域を対象に、国が直轄で漁場整備を行うフロンティア漁場整備が平成19年度より開始されました。その際に、我が国周辺海域の広域的な漁場利用や漁場整備の効果等を調査し、基礎資料としてとりまとめました。
  • フロンティア漁場整備の第1弾として実施された日本海西部地区のズワイガニ等の保護育成礁の整備に際し、適地や構造物の選定、施設の利用管理および事業評価手法等について検討し、直轄漁場整備マニュアルをとりまとめました。さらに、日本海西部地区における効果調査を行うとともに、ズワイガニ資源を効果的に保護育成する魚礁の設計や配置の検討を行いました。
  • また、湧昇マウンド礁について、東シナ海や日本海の海域において物理環境調査(流速・水質)などを行い、計画策定の基礎資料をとりまとめるとともに、既設の湧昇マウンド礁の増殖について生物調査や物理環境調査を実施しました。
  • なお、北海道武蔵堆周辺海域でスケトウダラを対象とした増殖可能性調査を実施しています。

水産環境整備事業の創設に向けての検討および計画立案等への技術開発

  • これまでの漁場整備は、沿岸漁業生産の下支えとして一定の役割を果たしてきましたが、平成22年12月に、生態系全体の底上げを目指し、水産生物の生活史に対応した良好な生息空間を創出する整備を推進していくことを理念とした「水産環境整備の推進に向けて」がとりまとめられました。
  • 水産環境整備事業の全体計画(マスタープラン)を、計画(Plan)-実施(Do)-検証・評価(Check)-改善(Action)のPDCAサイクルに沿って推進する手法について検討しマニュアルを策定しました。その中で、「環境基盤の重視」の観点から、漁場整備は環境基盤整備であるとの視点に立ち、物質循環に着目し生態系全体の嵩上げを事業効果とすることを検討しました。さらに、モニタリングの方法や順応的管理、評価方法については引き続き検討を行っています。
  • 複数県における総合的な漁場整備手法については、播磨灘地区(兵庫、岡山、香川県)を対象にマコガレイを指標種として、「産卵場~着底場~育成場~漁場」までの生活史を踏まえ、関係県の役割を整理し、産卵場保護、着底場の整備、夏期の滞留場の整備といった整備メニューとゾーニングをとりまとめた「播磨灘地区水産環境整備マスタープラン」が、全国の第1号として承認されました。なお、事業開始後に設立された、3県で構成する行政・研究連絡協議会に参画し、モニタリング結果の評価等を支援しています。

さらなる連携事業の推進に向けて、「本州日本海北部地区(青森、秋田、山形県)マスタープラン(案)[指標種:ウスメバル・ハタハタ]」をとりまとめました。

漁場整備事業へのリサイクル材等の活用のための技術開発

  • 循環型社会形成推進基本法が平成12年に成立し、廃棄物リサイクル対策が全国的な運動として様々な分野で進められるようになりました。この様な背景を受けて公共事業として行われている水産基盤整備事業において、部材として利用することが有効であると判断される材料に着目し、各種利用マニュアルを作成しました。
  • ホタテガイ・カキ類の貝殻の有効利用を図るため、漁場造成への利用の適応範囲の検討を行い、具体的にはナマコ増殖場への利用および粗放的なホタテ地まき漁場への利用に関する研究を行い、リサイクルガイドラインとしてとりまとめました。
  • 平成23年3月に発生した東日本大震災により発生したコンクリート瓦礫などの廃棄物の漁場施設への有効利用を図るため、藻場造成に使用する基質としての有効活用実験および養殖施設のアンカー材としての活用試験を実施し、マニュアルをとりまとめました。
  • FRP漁船の魚礁事業への活用について検討を進めています。
  • 全国の17地域協議会が取組んでいる木材を活用した増殖技術開発について、その効果のとりまとめや指導などを行っています。

漁場整備や漁港施設の漁場としての有効活用に関する技術開発

  • 費用対効果分析手法の検討(費用対効果分析マニュアル)
  • 人工魚礁の効果指標の検討調査(人工魚礁蝟集量調査マニュアルの作成)
  • 魚礁における増殖機能の便益計測マニュアルの作成
  • 藻場・干潟における炭素固定効果の検討
  • 漁港施設をイセエビやナマコなど生物の生活史の一部の生息場として活用するための検討

都道府県等などからの調査研究

  • 瀬戸内海の家島諸島沖の第2の鹿ノ瀬構想の策定では、新たな増殖場として石材を用いた増殖礁を整備するための調査研究、完成後の評価等を実施
  • 水産環境整備の個別マスタープランの策定
  • 木材増殖礁地域協議会からモニタリング調査
  • 藻場やアサリ増殖場等の適地選定、造成計画の策定

漁場施設研究会の設置運営

自主研究として、漁場施設の蝟集機能や増殖機能などに関する研究及び漁場・増殖場造成に関する研究を行うことを目的に平成16年度に研究会を設置し、現在、民間会社31社が会員となっています。毎年、定例研究会を開催し、国、都道県職員の参加を得て、当研究所及び会員の研究発表を行なっています。


今後の調査研究の展望

  • 新たなフロンティア事業での対象種や対象海域の設定に関する研究
  • 水産環境整備事業などの漁場整備に関する評価手法の開発・簡便化の検討
  • モニタリング技術の高度化
  • 水産環境整備事業に対応した漁場整備に関するマニュアル等(現在の人工魚礁計画指針、および各種増殖場造成計画指針)の改訂